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夕暮れ、茜色に染まる薄野原を歩いていた時のこと。
すぐ側でガサガサと音がするので、何かなとそちらに向かってみた。

薄の茶色葉の間を、白くて細長い物が一本横切っている。
彼の胸くらいの高さで、両端はどちらも薄に埋もれて見えない。

一瞬、大きな蛇かと思ったが、よく見ると鱗がなく柔らかそうだ。
見ている間もズリズリと薄の間を移動しているよう。
尻尾を見てやろうと、しばらく待ってみた。

やがて現れた末端に、尻尾は付いていなかった。
女のものに思える細い手が、彼の目の前を横切って薄野に消えた。
しばらく硬直したまま動けなかったという。
必死で足を動かし、何とか日が暮れる前に薄野原から出たそうだ。