608 : 本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:2011/06/21(火) 06:37:13.21 ID:w09cP7x10 [1/4回(PC)]
去年の夏のこと。 

午後遅くの山手線は家路に着く人たちなのか、はたまたこれから遊びに行く人たちのか、そこそこに混んでいた。 
定時で仕事を終えての帰り道はいつも一時間弱かかり、できることなら電車内では座っていたいところであったが、ちょうど座席に空きが見当たらず、つり革につかまり立っていることになった。 
目の前の席には5歳くらいの女の子が座っており、そのとなりには母親らしき女性が前抱きのベビーキャリアに赤ん坊を抱き、買い物の紙袋を足元に置いて座っていた。 
品川から大崎、五反田、目黒、恵比寿と電車が進んで行き、母親の胸元で赤ん坊は時々思い出したようにむずがっている。 
ケータイでメールを打ちながら、サングラス越しに親子を観察する。 
母親は若い綺麗なひとで、多分30半ば程度だろう。白いTシャツの上にブルー系のチェック柄ベアトップのワンピースを着ている。温厚そうで赤ん坊を見る目が幸せそうな感じだ。 
その母親のとなりで行儀よく座った少女はつやつやのショートヘアでくりっとした大きな目をしている。白いTシャツにいかにも手縫いといったピンクと黄色のまじったチェック柄のスカートをはいて、ピンクのサンダルをはいている。 
私の持つケータイの大量のストラップが気になるのか、しきりに私の手元を目で追っていた。


609 : 本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:2011/06/21(火) 06:38:14.08 ID:w09cP7x10 [2/4回(PC)]
少女は赤ん坊がぐずるたびに 
「泣いてるの?」 
「お腹減った?」 
と小さな声で、母親にとも赤ん坊にともつかない質問を投げかけた。 
母親はキャリアを揺すって赤ん坊をあやし、 
「お腹減ったのかな?」 
と、同じように赤ん坊に問いかけている。 

渋谷に電車が到着すると、車内はにわかにあわただしくなり、乗降客がどっと増える。 
つり革につかまったまま周りを見渡すと、向かいの席の一番はしが空いていた。 
私はすばやく移動してその席に座り、膝の上に荷物を乗せた。ここから新宿に向かって車内が混み合うのでとてもツイていると思いながら。 

案の定、人が増え、座席はあっという間に埋まって座席の前のつり革も満員となった。 

私はさっきまで観察していた親子のことなど早々に忘れ、座席に座れたラッキーを噛みしめながら、手元のケータイに目を落とした。