535 : 自治スレでローカルルール他を議論中[sage] 投稿日:2010/10/16(土) 03:40:11 ID:8Rm6kYGVO [4/8回(携帯)]
子供みたいなパジャマ姿のママ電話は、松の木にべったりと張り付いて小刻みに釘の頭を叩いていた。 
俺がイメージしていた丑の刻参りとは違う。 
ママ電話はがん、がん、がんと怨念を込めて釘を打つのではなく、こんこんこんこん、こここここ……と、 
力を込めずにちょっとずつ釘を打ち、ぶつぶつぶつぶつと小声で何かを喋っている。 
その声が、異様だ。怨念やら怒りがこもるような声音ではない。 
何かをおねだりするような、甘ったるい声音。 
成人した男であるママ電話がそんな声音で 
「ね? だよね? そうだよね?」 
などと呟き続けている。 
怖さより、気持ち悪さを感じた。 
頭がイってると思った。

 
536 : 自治スレでローカルルール他を議論中[sage] 投稿日:2010/10/16(土) 03:41:08 ID:8Rm6kYGVO [5/8回(携帯)]
「何やってんだてめえ!」 
その気色悪さに堪えかねたAが飛び出してママ電話に掴み掛かったが、 
あああ! と声を挙げて暴れたママ電話に振り払われて転んだ。 
ヤバいと感じて俺も飛び出した。ママ電話は金槌を持っている。殴られたら洒落にならない。 
しかしママ電話は金槌を捨てて逃げ出した。襲い掛かってくるものだと身構えていた俺は呆気に取られた。 
「待てコラ、ボケエ!」 
叫んで走り出したAにつられて俺も走り出す。 
貧弱な割に足が早いAと、運動神経は悪いが体力に自信があった俺は、簡単にママ電話に追い付いた。 
ママ電話は暴れたが、やがて観念したのか大人しくなった。 
「何でこんなことしたんだ」 
俺としてはそこが知りたかった。恨まれるような覚えはない。 
陰口を叩いた事が全く無かったとは言わないが、いじめなんかはした事が無い。 
「……」 
ママ電話は言動があれだったが、知的障害の気は無い。おどおどとするが受け答え自体は確りしていた。 
だが、そのママ電話は何も答えない。苛ついたAが彼の胸ぐらを掴む。 
「おい、何とか言えよ」 
それでも何も言わない。じ、と黙り込むその姿には、学校でのおどおどとした様子は欠片も見当たらない。 
俯いたまま上目遣いで俺を睨む彼に、Aは舌を鳴らす。 
俺の口からバカ、やめろ、という言葉が出る前にAはママ電話を睨み付けたが、すぐに彼のパジャマから手を離した。 
「もういいや、行こう」 
俺としては何でこんなことをしたのか聞きたかった。なぜ俺が呪われなければいけないんだ、と。 
それにパジャマ姿でこんこんと釘を打っていたママ電話は明らかにおかしいというか、変質者丸出しだったし、 
このまま放置するのは色々と躊躇われた。 
けれどAは、 
「良いから」 
と言って俺の腕を引っ張る。釈然としない俺はその手を振り払ったが、強くAに言われ、渋々その場を離れた。 
その間ママ電話は、ずっと上目遣いに俺を睨んでいた。 
Aと一緒に松林を抜ける際に、後ろを振り返る。 
ママ電話の姿はもう見えなかったが、俺の脳裏には俺を睨み続けるママ電話の姿が浮かんだ。



539 : 自治スレでローカルルール他を議論中[sage] 投稿日:2010/10/16(土) 03:43:58 ID:8Rm6kYGVO [6/8回(携帯)]
帰ってすぐに眠いと言って寝始めたAから、ママ電話を放置することに決めた理由を聞いたのはいつもの食堂だった。 
話の内容に対して余りに軽い口調だった事を良く覚えてる。 
「返しの風に掛かってたからな」 
食事中以外は全く解らないが、あいつの口はちょっとびっくりする位に大きい。 
Aは餃子をひょいひょいと口に放り込み、まとめてもぐもぐしながら俺に言った。 
「呪いが失敗した時に自分に反ってくるってやつだっけ」 
そうそう、と軽い口調で言ったAは餃子を飲み込み、ジョッキを空けてげふっとゲップをした。 
毎度の事なので特に何も言わない。 
「大丈夫なのか」 
「死んだり大怪我するほどじゃない。自業自得だろ」 
しかし俺としては釈然としない。呪われた理由を知りたかったし、俺を睨みつける表情も異様だった。 
「丑の刻参りなんてしたこと無いから解らないが、多分自分の念が返って来たんだろ。 
 お前に対しても何か起こるってことは無いだろうし。現に、何とも無いだろう」 
その一言の後、食事を終えたAはゴルゴを開いた。釈然としないまま俺も食事を終え、鬼平を開いた。 


夏休みが終わった後、ママ電話が自主退学した事を担任に聞いた。何が有ったかは解らない。 
不発に終わったママ電話の呪いは虫刺されという形に変わり、ついつい掻いてしまう質の俺は、皮膚科を受診する羽目になった。