大学二回生の夏だった。
ある時期、加奈子さんという僕のオカルト道の師匠が、空を見上げながらぼんやりとしていることが多くなった。
僕の運転する自転車の後輪に乗り、あっちに行けだのそっちに行けだのと王侯貴族のような振る舞いをしていたかと思うと、ふいに喋らなくなったので、そうっと背後を窺うと、顔を上げて空をじっと見ていた。
「なにか面白いものがありますか」
と訊くと、「……うん」とは答えるが、うわの空というやつだった。
僕も自転車を止め、空を見上げてみたが雲がいくつか浮かんでいるだけで特に何の変哲もない良い天気だった。
その雲のうちの一つがドーナツのように見えたので、ふいに食べたくなり「ミスドに行きませんか」と訊くと、やはり「……うん」とうわの空のままだった。
連れて行くとドーナツを三つ食べたが、やはりどこか様子がおかしかった気がする。
【せんせいはこの街で誰よりもたくさん空を見てますよね 前編】の続きを読む