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うちのじいさんのことなんだ。12年前に死んだんだよ
だからな、古い話ではあるんだが・・・最近なあ、実家で仏壇を買いかえる
ことになって、小引き出しなんかを整理したら、変なものが出てきてな
それについての話なんだ

それでな、俺はあんまり頭がよくねえんで、人にわかりやすいように
話をするのが苦手なんだよ なるべく順を追って説明するつもりだが、
もしわからねえとこがあったら、適当に質問入れてくれ

18年前な、俺は高校2年生で、田舎の実家に住んでたんだ
頭のいいやつらは近くの市の高校に行くから、地元の学校にしか
行けなかった俺は根っからの落ちこぼれだよ 

ああ、すまん、関係ないな

で、当時、俺の家族は両親に小学生の弟、それから70を過ぎたじいさん
ばあさんは俺が幼児のときに死んだから、かすかに記憶があるだけだ

それでな、うちは山持ちだったんだよ かなり広い山林を所有してた
ってことだ。いや、資産としての評価額は低い。あんな田舎の山、
買うやつはいない。昔と違って、木材がまるで商売にならねえから
けど、わずかばかりだが固定資産税は払ってたな。じいさんは体力があった

ばりばり畑仕事してたし、週に1ぺんは持ち山に登ってたんだ
これは山の手入れをするためで、登る人がいないと道が消えてしまうし、
木の下枝をはらう仕事もある そのついでに、春は山菜、秋はキノコと、
背負ったカゴにいっぱい採ってきてな あと、じいさんは罠猟師の免許を
持ってたから、ときおり鹿肉なんかが夕飯に出た

家で山に行くのはじいさんだけだった。親父は農協の職員で、
そんな時間はなかったし 母親は山なんかに興味はない

あと、俺と弟だが、じいさんが山に連れてってくれたことはないんだ
「危険がある」って言ってな けどよ、山ったって、高さ数百m

今考えれば、そんな危ないことはねえと思うんだが、それはきっと、
山にあいつらがいたせいなんだろうなあ え? あいつらって何かって、
今からそれを話していくんだよ。あれは・・・夏だったのは覚えてる

俺は夏休みだったからな。その夕方、夕飯前に山からじいさんが
帰ってきたんだが、何か様子が変だったんだよ 
どんと庭先にカゴを置いて、それから外の水場に行って、
いつも持ってる山刀の刃をごしごし洗い出してな

たまたまそれ俺が見てたんで、じいさんに「そんなことしたら刃が
 錆びるんじゃねえか」って言ったんだ そしたらじいさんは、
「なーに、後で油をさしとくから心配ねえ!」って言った 

でな、そのとき、なんかじいさんの目が血走ってる気がしたんだ

いや、いつもは俺らには優しいじいさんだったんだが
それで、「山で何かあったのか?」重ねて聞くと、じいさんはぽつんと、
「ちょっとしくじった 誤ってやつらの王様をやっちまった」って言ったんだよ

わけわからんだろ、山に王様がいるか? けど、「どういうこと?」と
言っても、それ以上じいさんは答えてくれなかったんだ

それから、じいさんはぱったり山に行くのをやめたんだ

秋になって、例年ならどっさりマイタケなんかを採ってくるはずが、
その年は1回もなかった これは残念だったな 俺も弟もキノコ汁が
好きだったんで でな、じいさんは畑には毎日出てたが、ある日、
遅くに戻ってくると、「やつらが山を下りてきやがった 畑まで来るとは、
 わしを相当憎んでおるんだろうなあ」こんなふうに言ったんだよ 

「やつらって?」 「中国から来たやつらだ わけあってうちの山に
 住まわせておったが、この間、話がこじれてやつらの王様を殺してしまったから」

・・・うちのじいさんは、ちょっとの間だけど
戦争に行ってるんだよ そのときの話はしてくれなかったが、
後で親父に聞いたところ中国戦線だったらしい 

けど、召集されてすぐ
終戦になって、じいさんは戦闘らしい戦闘もせずに帰って来たって
まあ、運が良かったってことだろうが、中国人を日本に連れてくる

余裕はなかったろう だから、この話も意味不明だった そもそも、
うちの山は人が住んで暮らせるようなとこじゃない

でな、じいさんは続けて、「今日はわざと日が暮れてから帰ってきたが、
 家のありかをやつらに知られるとまずい」そんなことも言ってな、
翌日、家の庭に罠を何個も設置したんだ これはさすがに、
ハサミ罠は危険なんで、親父が反対したな 下手をすれば骨が折れる

けど、じいさんは言うことをきかず、誰も庭に出るなって言ってな
田舎だから、庭って言ってもけっこう広いし、いちおう低い垣根はあるが、
その外の林との境もあいまいなんだよ それから、じいさんは毎朝早くに起きて、
庭の罠を見回るのが日課になった けどよ、あんな罠にかかるような
動物が家の近くまできたことはなかった

だから、悪いけど俺は、じいさんのボケが始まったと思ってたんだよ でな、
冬がそこまで近づいてきた頃だ 朝飯のときにじいさんの姿が見えなかったんで、
俺と弟で探しに出た そしたら、母屋からかなりはなれたとこでしいさんが
倒れてた。上半身血まみれで、喉から太い木の枝が突き出してたんだ

かなりもがいたらしく、そこらの雑草がむしれてたよ あとな、じいさんの右手、
それにトラバサミの罠が食らいついてったっけ 仰天して親に知らせ、
親父が見に来て救急車を呼んだ ・・・じいさんは死んでなかったんだよ

けども、刺さった枝が気管と食道を大きく傷つけてて、
肺に水がたまって1週間後くらいに亡くなった 幸いというか、
ずっと意識がなく、苦しむことはなかった 警察も来たよ けど、事件性はなし、
転んだとき、たまたま地面にあった枝が刺さったんだろうってことになった

まあなあ、うちを恨んでる人間なんていなかったし、それが妥当な解釈だが、
ただ・・・一連のことを考えると、王様を殺されたやつらが山を下りてきて
じいさんに復讐した 俺と弟はそんなことも考えてたんだよ

じいさんの葬式が終わり、遺骨はしばらく家の仏壇に置いておくことになった

納骨は春がよかろう、って住職が言ったからな。で、それから3日後くらいだ
夜中の2時頃かなあ 俺は音楽を聞いて起きてて、腹が減ったんで1階の
冷蔵庫から何か食いもんをあさろうと考えて、台所まで行ったのよ

で、ハムを厚く切って戻ろうとしたとき、廊下で何か音がしたんだよ

「ん?」そっと出ると、異様なものがいたんだ 一言でいうと小人
チワワくらいの大きさかなあ 見たことのねえ服を着て、髪の毛を
編んで垂らした小人が、両手で何か白いものを捧げ持つようにして歩いてた

びっくりしたよ けども、向こうのほうがもっと驚いた様子で、
その持ってたもんを口に咥えると、四つん這いになった で、ネズミのような速さで、
俺の脇を駆け抜けてったんだよ 

それから親を起こしてその話をしたが、
信じてる様子ではなかった けどな、いちおう家の中を調べたら、
廊下の一番奥の仏間 仏壇にあったじいさんのまだ納骨してない骨壷が倒れてて、
白い骨の粉がいちめんに散らばってた 

けど、それ以外に被害はなかったし、
家のドアも窓もすべて戸締まりされてたから、警察に訴えることもなかった
おおかた両親はネズミがやったことだと思ったんだろう

俺が見たものは寝ぼけ・・・けどな、その週の日曜日、弟を誘って
うちの山に登ったんだよ ああ、冬のほうが登りやすい
実家のある地方は雪はほとんど降らんし、冬場はヤブが枯れてるから

でな、人ひとりが通れるくらいの道があった 

そうだなあ、一番高いとこまで登っても1時間ちょっとだった 
で、その途中にじいさんがつくったと
思われる小屋があったんだよ 小屋っても、突然の雨をしのげる程度の
屋根がかかってるもんで、鍵なんかはついてねえ 畳3畳程度の広さ
中に入ると、土間の奥のほうにわけわからんものがあったんだ

・・・立派な服を着た小人の骨だよ 頭は骸骨になってて、長い髪の毛が残ってた
そう、俺が前に見たやつと同じくらいの大きさ 弟も見たから間違いじゃねえ

でな、その前にやはり小さい長机があり、その上に、白い塊がのせられてた
ああ、たぶんじいさんの遺骨の一部だ そんとき、小屋の屋根の上で、
コツコツって何かが歩くような音がした 

それで俺らは怖くなって
山を駆け下りたんだ けどよ、その後、親父といっしょに小屋に入ると、

見たもんはきれいさっぱりなくなってたんだよ まあこんな話なんだ
それから俺は高卒で就職して、実家にはあまり帰ってねえが、
特におかしなことがあったってことはない 

でな、最初の話に戻るんだが、
親父が定年退職になって家中を整理するって言い出し、
仏壇の中身も全部出してみた 
そしたら、引き出しの奥から、古い古い新聞に包まれた平たいものが出てきてな 

中にあったのは一枚の黄ばんだ白黒写真 日本には見えない家の窓際に机が置かれ、
その上に人の生首がある 首は苦悶の表情を浮かべててな、

軍帽から日本兵じゃないかと思う いや、じいさんじゃねえよ

立派なヒゲがあったから上官とかだろう でな、その首の血溜まりを4人、
あの小人たちが取り囲んでたんだ どいつもみなキョンシーみたいな服着てさ