これは不動産屋に勤めていた頃の話なのだけれど。
オープンハウスって皆は知っているだろうか。
新築やら中古やら一戸建てとかマンションの一室を土日に開放して、物件を誰でも見ることが出来る状態にして、買主さんを探すイベントなんだよね。

前にいた会社は、毎週土曜日と日曜日に必ずオープンハウスを実施してたんだ。

で、来場者には必ずアンケート書いてもらうのね。形式上はQUOカードをプレゼントしたいからってことで、本当の目的は顧客名簿を手に入れるためなんだけどさ。

いつだったか、後輩と同期とでだいぶ溜まっていたアンケートをまとめないといけなくなって、作業を始めたんだよ。
そしたら後輩の女の子がさ
「あれ、またこの女の人来てますね」
って、ある人のアンケートを取り出してきたわけ。

情報自体は普通の女性の方。50代くらいだったかな、連絡先と備考以外は全部きちんと物件についての感想や選択肢を埋めてくれている人だったよ。
もっとも、連絡先控えてないと名簿としては意味が半減しちゃうから、店長には怒られちゃうんだけどね。

でもね、物件ごとに集計続けていくうちに、おかしなことに気が付いたんだよね。
毎回必ずと言っていいほど、この女の人が物件に来てる。でもさ、3人ともこの女性がどんな人だったのか覚えてない。

それどころか、誰も接客してないはずの物件にすら、この人のアンケートが必ず入ってる。

正直、不気味だったもんだから、その女の人のアンケートだけ捨てちゃったんだよね。

次の週だったかな、オープンハウス終わって事務所戻ってきたらさ、
事務所の机で後輩が大泣きしてるの。
なんかあったんか、って聞いたら1枚のアンケートをこっちに渡してきてね。この時点で嫌な予感しかしなかった。

まあ、予想通りその例の女の人のアンケートだったんだけど、いつもと違う点が一つだけあった。

アンケートって、大体最後に備考欄あるよね。自由に意見書き込めるスペースみたいなやつ。

あそこにさ
「ありがとうございます、ここに決めました」
って。

結局、そこから2ヶ月くらいしてから、その物件別のオーナーさんに無事に売却できたんだけどね。
オーナーさんに言うべきだったのかな、「先客」がいますって。