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小学生の時の林間学校で経験した話なんだが。
やっぱ山って何かあんのかな?俺はかなり怖いと思った経験をした。
当時俺には好きな女の子がいて名前をYにしとくね。ほんと偶然なんだけど林間学校で行動するグループYちゃんと一緒になったんだよ。
内心すげぇ嬉しくて飛び跳ねそうだったけどそこは我慢した。
で、日数が経過した頃飯盒炊飯をした後に肝試しもしたんだよ。
ちなみにYちゃんと作ったカレーはおいしかった。

ま、それはどうでもいいんだけど問題は飯盒炊飯の後の肝試しだったんだよね。
そりゃ本格的なもんじゃなくて軽めのものだけどさ。

2人1組になって短い距離を歩くって感じなんだけど気を利かせてくれたのか俺とYちゃんで行きなって周りに言われたのよ。男子達は知ってたしな。
内心めちゃくちゃ嬉しかったしいいとこ見せたかったけど、そんなこと言えるわけもなくて「Yかよー」みたいな反応しちゃった今思えば馬鹿だった。
「ごめん。私なんかじゃつまんないよね」
みたいなこと言わせたのは後悔してもし切れない。

で、いざ始まった肝試し。
俺たちの前の奴らが進んでからちょっと経った後に俺達もスタートしたんだよ。

勿論微妙な空気の中な。
周りの茂みの中からは虫の鳴き声が聞こえたりしてた。
本来嬉しいはずの時間で終わって欲しくないとさえ思う時間のはずなんだけど今はさっさと終わって欲しかった。ほんとにいらん事言った。
そんなこんなで2人で無言で歩いてる時だった。
「あれ、道を間違えたか?」
「間違えた?一本道なのに?」
道なんて間違える訳ない、5分も歩けば終わるんだから。何よりこっちだよと教える看板からそこらに立っているんだからそれに従って歩くだけなのだから。
普通ならそろそろ終わるはずの道が終わらない。
ちなみに看板は続いてた。でも一向にたどりつけない。

そこから10分くらい歩いたかもしれない。
終わらない道に2人でパニックになってた。
いつの間にか虫の鳴き声は消えてた。
俺達の歩く音だけだった。
「俺君?どうなってるの?これ、俺君の悪戯?」
「ち、違うに決まってるだろ?こんなの」
この段階でパニックになってた。
本当に訳が分からないから。

「もうやめてよ。怖いよ」
「だから知らないって」
この段階で多分俺がわざとこんなことしてると思われたに違いないだろうな。
でも俺だって知らないから焦ってる。
その時だった。
「い、今何か聞こえなかったか?」
看板に書かれた矢印の方向から声が聞こえた気がする。
「え?や、やめてよ。何も聞こえないよ?」
そう返されたけど確かに聞こえた。
「こっちだぞー」
感情の籠っていない、そんな声が矢印の先から聞こえる。

初めは先生が迎えに来たのか?って思った。でも本能はそっちに進めばやばいと言ってる。
「ほ、ほら聞こえるじゃん!」
「だ、だから聞こえないよ?!」
Yはそう言ってるけど確かに聞こえる。
「こっちだぞー」
何度も何度も繰り返される。
「こ、これが聞こえないのか?!」
「だから聞こえないって!」
その間も声は続いてる。
俺たちを呼んでる。その時
「こっちだぞー」
声の主らしき奴が姿を見せた。
そいつは夜の森の中でもはっきり姿が見えた。
そいつは人型の形をしていた。でも人間じゃない。顔のある場所は黒く塗りつぶされてて体の部分は白くうねうねしてた。

それを見た瞬間俺は俺を見つめるYちゃんの手を握って強引にそれを見させないようにした。
確信した。矢印の方向に進めばやばいことを。
「絶対後ろを見るな」
「え?」
「絶対見るな」
もう一度言ってから俺はYちゃんの手を引いて今来た道を引き返した。

どれくらい走っただろう。
いつの間にか俺たちはゴール地点までたどり着いていた。
「遅かったじゃないか。俺君」
そこには心配そうな顔をした先生の姿。
俺は事の顛末を話した。でも
「はぁ?」
そんな顔をするだけだった。何を言ってるか理解できないんだろう。
俺が必死に説明してると俺たちを探しにいってた他の先生達が帰ってきた。

一段落ついた時友達が笑いながらこう声をかけてきた。
「ひゅーひゅー」
それを聞いて手を離した俺だったけどもう遅かったようだ。先生も呆れてた。
「いくら仲を深めたかったからってやっていいこととダメなことはあるぞ?」
「な!だ、だから違うって!」
必死に弁解したけど結局俺がYちゃんと仲深めたくてやった悪戯ってことで決着がついた。
その後俺は最低ってYちゃんに振られたけど必死に謝って許してはもらったけどそれ以上はどうにもならなかった。

でも、守れて良かったかなって思う。
あのまま進んでたらどうなってたか考えるだけで怖くなる。
あの時出会ったのがなんなのか、俺たちが迷い込んだあの道は何なのか。気になることは多いけど俺が知ることは無いんだろうな。
山にはあれから行ってない