GAK68_hanmeusagi_TP_V

友達と二人で遊んでいた時のこと。
村外れの山麓だったのだが、後ろの藪をガサガサと揺らして何か出てきた。

茶色い毛並みの兎だった。しかし何かがおかしい。

兎なのに、二本足で与太つきながら歩いている。

口元からは血が滴っており、赤く染まった前歯が覗いていた。
何よりも怖かったのはその目だった。完全に据わっている。兎の目ではなかった。

兎は値踏みするように彼女らを見ていたが、すぐにこちらに向かってきた。
悲鳴を上げて逃げ出したが、村の近くまで追いかけられたという。
行き会った大人に泣きついたのだが、事情がわかった途端に村中大騒ぎになった。

「外道さんが出た」大人たちは口々にそう言って駆け回っている。
彼女たちはしつこく「噛まれなかったか?」と問い質された。
兎一匹のために山狩りまでおこなわれたようだが、結局見つからなかったらしい。

教えてもらったところでは、その山奥には外道さんという物の怪がいるそうだ。
外道さんは山の生き物に取り憑く。
憑かれた物は肉を喰らうようになり、間もなく血塗れになって死ぬ。
外道さんに噛まれると、噛まれた者もまた外道さんに成ってしまうのだと。
そのためか、二人はしばらく隔離されて様子を調べられた。

彼女が言うには、兎も確かに怖かったが、それよりも村中の子供たちから「外道」
と呼ばれて虐められたことが、子供心に何より堪えたのだそうだ。