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カヌーで渓流下りをしていた時のこと。
途中で大きな淵に行き当たり、オールを使ってゆっくりと横断する。

淵の中ほどで、ドンッと軽い衝撃がカヌーを揺らした。
何かが水中で体当たりをしてきたかのような。

少し経ってから、またドンッと来る。
しかし見る限り水中には何も確認できない。
出来るだけ静かに、だが急いで淵を渡り切ったのだという。

下ってから合流した仲間たちに報告すると、中の一人がこんなことを言う。
「あそこには淵坊主っていう主がいるそうだから、それ怒らしたんじゃない?」
その淵は他の仲間たちも通過しているのだが、どうやらそんな目に遭遇した
のは彼だけだったらしい。

「何も悪いことなんてしていないんだけどなぁ。
 船揺らすような、でっかい岩魚でもいるのかね?」
彼はそう言って首を傾げた。

余談だが、最近彼は川釣り用の道具を揃え始めたと聞く。
密かに主を狙っているのかもしれない。