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真夏日に山歩きをしていた時のこと。
開けた道を進むうちに、崩れかけた廃屋が見えてきた。

丁度いいや一休みしよう。
彼は強い陽を避けようと、薄暗い屋内へ踏み入った。

廃屋はかなり崩れていたが、しっかりと日陰になった上、風通しが良かった。
ホッと一息ついていると、奇妙な物が目に入った。
神棚の残骸の下、柱の途中から赤い網がぶら下げてある。
季節外れの蜜柑だった。三個入っていて、表面が白くなっている。
てっきり黴だと思ったが、やがて間違いに気がついた。
蜜柑はカチカチに凍って霜を噴いていたのだ。溶け始めている。
なんで冷凍蜜柑がこんな所に? 考えてみたが答えは出ない。

唐突に、山から自分への贈り物だという考えが浮かんだ。
まさかなとすぐに否定したが、その考えは頭からなかなか消えず、食べずに
ここを出るのも失礼に当たるのではないかと悩んでしまったらしい。
混乱してしまった彼は、とりあえず神棚に手を合わせ礼を言上した。

 ありがとうございます。ただ今は喉が渇いておりません。
 気持ちだけ頂戴いたします。

そう頭を下げると山道に戻ったのだという。
麓が近づくにつれ、何かすごく間抜けなことをしたような、いやあれで良かっ
たのだと、思いは千々に乱れたそうだ。

数ヶ月後、再びそこを通ったが廃屋は陰も形も見えなかった。
白昼夢だったのかもしれない、と彼は頭を掻きながらこの話をしてくれた。