ogst1SDIM02471752_TP_V

ある日のこと 私が柱時計の修理をしている時、その知人はやってきた。
久しぶりに見る彼は青白い顔がさらに血色を失っていた。

テーブルを囲み彼は私に話し始めた。それはとても信じられない話だった。
彼はある薄暗い山奥で異国風のホテルを見つけそこに泊まることにした。
彼以外宿泊客はいないようだった。彼は4階の部屋を選んだ。

そして4階の部屋へいく廊下に掛けられていた絵に何かを感じて立ち止まった。
薄暗い廊下に掛けられたその絵は2匹の黒豹が爛々と目を輝かす不気味な絵だった。
彼はその絵に興味を引かれながらも自分の部屋に入った。

夕日が沈む頃、彼が飲み物を買いに部屋から出、その絵の前を通り過ぎた。    
その時、グゥル・・彼は獣のうめき声を聞いた。まさか?・・彼は恐る恐る振り返った。
そこには本物の二匹の黒豹が今にも彼に襲い掛からんとしていた。
うわぁー 彼は必死で逃げた。追いかけてくる黒豹。階段を駆け上がって5階に逃げた。
彼は後ろを振り返る。黒豹の姿はなかった。・・・幻覚だったのだろうか?

しかしその時彼はある旅人が書いた詩を思い出した。
   薄暗い森を抜けると 古い洋館がそびえ立つ
   壁絵に描かれた   2匹の黒い獣
   夕暮れ時      獲物を求め徘徊す
は! このホテルのことか?彼は思いをめぐらす。いやこんなことはあり得ない。

ここまで話を聞いて、私は彼がおかしくなったと思った。
彼のいうホテルは私も知ってる。静寂な雰囲気で古い洋風のホテルだ。
確かに似つかわしくない2匹の黒豹の絵はあった。しかし詩は聞いたことがない。

彼は幻覚でも見たのだと思い直し、4階の部屋に戻ることにした。
階段から廊下をのぞき見る。いない・・・意を決して彼は絵の前を通る。
背後に気配がする。彼は必死で走り自分の部屋に駆け込んだ。鍵を掛ける。

バリバリッー 黒豹がドアに体当りし、引っかくような音。ベキ ドアが壊れそうだ。
恐怖で引きつる彼。?・・・・しかし何故か物音がしなくなった。
彼はその日 一歩も部屋から出ず、翌日早々にホテルを後にしたそうだ。

私は彼が疲れているのだと思い、彼を家に帰した。・・?何か妙な感じがする。
彼の帰った後、部屋の雰囲気が何か違うことに気づいた。違和感がある。
テーブルだ。いつの間にかテーブルの上に見慣れた花瓶が置いてあった。

チッ チッ チッ ゴォーン 柱時計が午後4時を告げる。
はっ・・・・・・・・・その時 私は気づいた。
彼の話はすべて事実だったのだ・・と。