BOB20614P001_TP_V

山奥の集落で水道工事をしていた時のこと。
彼は水道引込の打ち合わせのために、各戸を訪問して回っていた。

その中に、異様に荒んだ感じのする家が一軒あったのだという。
何度呼ばわっても返事が無い。
何回か呼び鈴を押すと、やがて二階から下りてくる足音が聞こえた。
しかし、足音は玄関まで来るとピタッと止まってしまう。
玄関横にある小窓から中を窺ってみると、そこには誰もいなかった。

彼が首を傾げていると、離れた隣家の小母さんが声をかけてきた。
曰く、現在そこの家には誰も住んでいないという。
ちょうど一週間前に、奥さんが玄関で首を吊ってしまったのだ。
葬儀は身内だけでおこなったようで、家も既に売りに出されているらしかった。

私たちは工事の間、極力その家に近寄らないようにした。
作業員の話では、白い影が宅内を動いているのが、何度か見えたそうだ。