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旅の途中、山道に迷ってしまった男がいた。
日が暮れかかる中、途方にくれていると、どこからともなく
たとえようの無い良い匂いがしてくる。

誘われるようにして男がその方向へ進んでいくと
こんな山の中に誰が渡したものなのか、立派な橋があった。
橋の向こう側からは、三味線の音や人々の笑い声が聞こえてくる。

目をこらしてみると、綺麗に着飾った男女数名が楽しそうに宴をひらいている。
向こうのほうも男に気づいたらしく、
仲間が増えたと言わんばかりに、こちらに来るようににと手招きをしてきた。
一人旅の心細さから開放された男は嬉しくなり、
さっそく宴に加わろうと橋に向かって足を踏み出そうとした瞬間に
男は見てしまったのだ。

夕闇の中、下の谷間に幾つものギラギラと光る目がこちらを見上げているのを。
あわてた男が後ずさり、しりもちをついてから我に返ると、
目の前の橋は消えてなくなり、
静けさの中、一本の蜘蛛の糸がキラリと光り
切り立ったガケのあちら側に向かって、すぅっと伸びていたそうだ。

父の知人から教えてもらいました。
子供の勝手な想像で、
『天狗がばけて人間のところに遊びに来ているんだ』などと
思い込んでいました。

その人に対して怖いという感情があったわけではないのですが、
どことなく浮世離れした、不思議な人でした。