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おれもどうしても気になる思い出がある。
川、といっても、ほんの小川だが、よくこの川で遊んでた。
ある日、川を上流のほうへ登ってみようと思い立った。

なあに進めなくなったら引き返せばいいさ、と気楽なもんだ。
川のほとりの岩を登り、水上の石をステップし、ときには田んぼのあぜ道を進む。

もともと深いところでも子供の膝までしかないような小川だが、
その日は普段よりも干上がっていて、チョロチョロと申し訳程度に水が流れている程度だ。

進行方向(上流)に向かって、右側はヤブになっている。少し奥には道があるはずだ。
左側は山の斜面になっている。どれぐらい進んだだろうか。

左側、つまり山側のほうに奇妙な原色が見えてきた。
ゴミだ。なんでこんなとこにゴミが?奥に目を凝らす。ん?ほら穴?
草木の茂みに覆われてはいるが、そこはほら穴だった。
今から思えば昔の防空壕だったのかもしれない。
子供の格好の遊び場にされてしまい危ないから、
大人は、この手の情報は子供に隠すのだ。

注意深く近づいてみる。
人が出入りした形跡があった。土や草が踏み固められてるから何となく分かるわけよ。
耳を澄ませたが、人がいる気配はない。
意を決して中に入る。中には新聞や雑誌が散乱していた。
当時田舎では珍しいオイルライター(ジッポ)を発見したので戦利品として持ち帰った。
これがいけなかった。

たちまちライターは母親に見つかり、入手先を厳しく追及される羽目になった。
こうなると素直に白状するしかない。
母親は驚き、目の玉が飛び出るぐらい激しく叱られた。
父親が帰ると、待ち構えた母親はさっそく父親にチクり、
今度はダブルの叱責だ。
おれはほら穴に近づくことはおろか、友人に話すことまで厳しく禁止された。

まあ、これで話は終わりなんだけど、何が気になるって?
あのほら穴の中には、割と新しめの毛布があったんだ。
毛布って運ぶにはかさばるし、子供が運んだら、いかにも不審だろ?
いったいだれが運んだんだろうか?
そして例のライター。あのライター、たしかに着いたんだ。