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もうかれこれ10年近く前。地元には心霊スポットで有名な廃病院だか、廃宿だったか、山の麓にぽつんとある、4階建ての建物がある。
地元の若い連中で、知らない人はいない様な場所。さっき調べたら、とある心霊スポットまとめサイトにもあったくらいだ。

そこには、いついつに肝試しに来た3人組が、その後交通事故で全員死亡。なんてことが数行。
こういった噂話は、やっぱり尾ヒレが付いてくもんで、建物の1階にある黒板に名前を書くとそいつが死ぬとか、階段に灯ったロウソクが並べられてたとか、肝試しに実際行ったことのあるやつも周りに多かった。

知人のA,B,Cは高卒ヤンキーあがり。ヤンチャなやつらはその日テンション高く、その心霊スポットへ肝試しへ向かった。同じ仲間の霊感がある奴からの「あそこだけには絶対に行くな」という忠告を笑い飛ばして、バイクで出かけたようだった。

玄関の前の石階段には、野良犬が息絶えていた。気持ち悪いが、待ってましたとばかりに石段を登り、壊れたドアを開け、三人は懐中電灯の灯りを頼りに、建物の中に。
古い木製の建物だ、雰囲気は抜群。前評判も申し分ない。
三人は心霊現象を期待して、中を捜索した。

噂の黒板に、冗談で友人の名前を書こうと思い、懐中電灯の明かりを向けたら、そこには前回の肝試し訪問者のものと思われる大きな文字で 「犬」とでかでかと書かれていた。

偶然か、さっきの野良犬が嫌でも頭に過ぎった。

他にも噂はたくさんあった。2階の奥の部屋だけなぜか開かないとか、3階のトイレから声がするとか。

三人はとりあえずその噂だけでも確かめようと、いろいろ探し回った。
そうこうしているうちに慣れてきたわけで、最初は固まって歩いていた3人も少しずつ単独で動き始めた。

A「なんもねーなー」
B「な、なんもでねぇな」
C「つまんねー」

そう言いながらも、さっきの犬の文字だったりで、ビビっているのは確か。
少し経ってもやっぱりなにも出ない。

A「じゃぁもう4階行こうぜー」
B「おうー」
少し離れてた二人が声を掛け合う。

A「あれ?Cは?」
B「あれ?さっきそっちにいたよな?」
お互い近づいて、二人が話す。
Cの懐中電灯の光が見えない。物音もしない。

A「あのやろー先に上いったんじゃねぇか?」
B「かなぁ?俺らも行こうぜ」

そう言って二人はCを追いかけた

しかし4階の部屋を全部回ってもCはいない。B「ああ、はぐれたな。2階じゃない?」

3階も見回し、2階にもいない。

A「あれ、おっかしーな。もう外出たんじゃねえか?」

そういって、二人は外へ出た。
やはりCの姿がない。二人は徐々に怖くなってきた。

A,B「おーい、どこにいんだよー」
石段を降り、声を出して呼んで探していると、

C「おーーーい」

と声がする。
4階の窓からcが顔を出して、懐中電灯で二人を照らしていた。

C「よかったー、そこいたのか!超ビビったよー置いてけぼりはなしだぜ!」

A「お前がはぐれたんだろーが!どこにいたんだよ!」

B「探したんだぞ!もう何もねーしそろそろ帰ろうよ!」

そんなやり取りが、続く。

C「わかった、じゃぁ今からそっち行くから!ちょっと待ってて!」

「ハハハ、バカだ、あいつ」

AとBは大ウケしながらCが来るのを待ってた。
Cってヤツはどこか間が抜けてて、3人でつるんで遊んでてもいつも大抵何かポカをやらかすヤツだった。

B「けどよ、俺ら、4階も回ったよな?」
A「ああ~回ったな。でもCって間が悪いからさ、行き違いになったんじゃね」
B「う~ん…」

急に眉をひそめたBの顔を見て、Aも思い出した。
階を移動するための階段は自分たちが通った一つだけだったし、さっきはCを捜していたから意識していなかったが、4階の廊下は一本道で、途中から天井が崩れて塞がってた。
勿論途中の部屋を覗きながら進んでいたから、Cと行き違いになるなんて事はありえなかった。

それに…今さっきCが手を振っていた部屋。自分たちが覗いた部屋の数を考えると、丁度あの辺りが崩れていたはずだ。
外壁が無事だから分からないだけで、天井は確かに崩れ落ちていた。

A「なあ、B。今思い出したんだけどさ」
B「何? ドラマかなんか録画し損ねたか?」

つまらない返しだが、AはBが無理に笑顔を浮かべてるのに気付いたらしい。
こいつも何かおかしいって分かってるんだ、そう感じた。

B「…えらく長くかかるな」

そうBが呟いた直後

C「ごめんごめん、何だか中々進めなくて」

AとBは心臓が止まりそうになる位驚いた。いきなりCの声が後ろから聞こえたんだから。
でも慌てて振返った二人の前にCはいなかった。

C「こっちこっち。ここだよ」

声は下の方から聞こえた。草が茂ってて見えにくかったんだな、そこからCがうつ伏せになって笑顔で二人を見上げていた。

A「バ、バカ野郎! のんびり寝転がってんじゃねーよ」
C「いや、足に力が入らないんだよ。起こしてくれ」

A「しゃーねぇな!」

少しホッとした様子でCに近付こうとしたAの肩を、Bがつかんだ。
振り返るとBは真っ青な顔でゆっくり首を横に振った。

A「え…? 何よ?」

震えるBの指先を見てAも気付いた。

Cには下半身が無かった。押しつぶされ、引き裂かれてグチャグチャになった肉と、腸みたいな物が見えた。
それでもニコニコとCは笑っている。

C「何だよぉ、起こしてくれよぉ」

妙に間延びしたCのセリフを合図に、二人は脱兎のごとく逃げ出した。

A「何だよ、何なんだよ…」
B「離れよう。とにかく今は離れよう!」

二人はバイクに乗って逃げ出した。
Cが追ってくるんじゃないか、そんな恐怖で何度も何度もミラーを確認し続けながら走った。

コンビニで夜を明かし、様子を見に戻ろうとも思ったが、どうしても昨夜の恐怖が拭えなかったんだろう。
二人は結局Cを置き去りにして家に帰ってしまった。

それからしばらく経って、Cは失踪したという事になった。
いつもつるんでいたから色々事情を聴かれたらしいが、AもBも知らない、で貫いた。
丁度その頃、例のスポットでは『上半身だけの幽霊が現れる』という新たな噂が付け加えられていた。

警察がどんな捜査をしたのかは分からないが、Cは勿論、彼のバイクすら発見されなかった。
そして、半年が過ぎた頃、例の廃屋が取り壊される事になった。

そんな折、AはBから話があると呼び出されたらしい。
BはAに、あの夜自分がした事を懺悔したかったのだろうか。
皆が単独行動になった時、Bはあの黒板にCの名前を書いたのだと告白した。
前々からCの間抜けぶりに嫌気がさしていたBは、ちょっとした悪戯心で黒板にCの名前を書いた。
フルネームで書き終わった時、何となく馬鹿らしくなったBは、名字と名前の間辺りをザっと袖で拭い消した。
これなら〇〇(Cの名字)と××(Cの名前)だから、C自身の事にはならないだろうと考えたらしい。

B「そしたら、あいつ、千切れて…」
A「偶然だって。っていうか、C見つかってないじゃん。ひょっとしてマジ家出かも知れないぜ?」

確かにCは何の痕跡も見つかっていなかった。あれは夢だったのかも知れない。
引き攣ったような、でも少し安堵したような笑みを浮かべたBとAは、それを最後に二度と会う事はなかった。

そして廃屋の解体が始まり、意外な結果が明らかになった。
崩れて先に進めなくなった4階の廊下、その先でBの首なし死体と、Cのバイクが見つかったのだ。

ありえない場所にあったありえない死体とバイク。
地元のテレビで現場として廃屋内部が映った時、Aはその映像の中に信じられない物を見つけた。
録画していた映像をコマ送りで見ると、彼には分かった。
擦れたのか、かなり薄いが〇( <×という真ん中辺りが消えているCの名前。
そして… _△□□という、先頭の一文字がほぼ消えたBの名前。

プリントアウトしたそれを見せながら、ゾクっとした、とAは知人に語ったらしい。

A「BとC、多分あいつらはお互いに嫌ってたんだろうな。だから名前は書いたものの、殺すほどではなかったから消そうとした」
「中途半端に憎み合って、中途半端に殺そうと考えちまった結果がこれだ。バカらしいよなw」

無言で頷きながら、知人は別の事に気付いていた。
黒板の両端に書かれた妙な線。クッキリと迷いなく書かれた線。

Aが立ち去った後、知人は写真を折り曲げ、両端の線を合わせてみた。
そこにはハッキリとAのフルネームが縦書きになっていた。

『君は二人から中途半端に憎まれていた訳ではないんだね』

それ以来、Aとは音信不通なのだそうだ。