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知人に「○島」さんというおじいさんがいる。
もう、70を越えた人で、立川市の砂川町という所の代々の農家だ。
○島さんは青年のころ、よく多摩川につりに行った。

ある時、とてもよく釣れた日があって夢中になって時を忘れ、日暮れになってしまった。
薄暗くなっただれもいない川原を急ぎ足で歩いてくると、行く手にだれかいる。
暗闇を透かしてみると、白い着物を着たきれーな娘さんだった。
(はは~ん)と○島さんは思った。
(こりゃ、キツネだな)。
理由は娘さんの着物の柄が見えないこと。

キツネは人を化かすとき、化かすのに手一杯で、着物の柄にまで手がまわらないのだそうだ。
(魚籠の中の魚が目当てだろう)と目の端で追いながら脇を通り過ぎると、あんのじょう
パッと消えた。

○島さんは気にもしないで家に向かったが、道々、どうも何か付いてくる気がする。
(しつこいヤツだ)と思って、釣竿を逆手に持って、肩から背中をはらうようにブンブン振り回し
ながら家に着き、あがりがまちを上がるか上がらないかの時、サラサラと着物のすれる音がして、
見えない何かが仏間に入った。
(????)不思議に思って、のぞいてみたがだれもいない。

さてはあのキツネのヤツ、とばかりに魚籠を確認したが魚は一匹も盗られていなかった。

(へんなこともあるものだ)と思い、夕飯のときに家族のみんなに話したが、みんな「キツネに
化かされたんだ」とわらうばかりで、本気にしてくれない。
ただ、お祖父さんだけは、
「それは○島のご先祖様か、縁のある人かもしれない。仏間に入ったのなら、キツネではない。
ひょっとしたら、怪我や病気、火事などの『変事』の知らせかもしれない。○○(○島さんのこと)を
始めとして、よくよく用心するように」
と言った。

○島さんの家ではその言葉どおり、戸締りや灯明のとりあつかいにまで気を配った。
そして変事は起きなかったそうだ。