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母親の友人が精神疾患に罹って、母と私が手を焼いていた時期がある。
その友人(以下Y子とする)は母の古くからの友達で、よく私達の家に遊びに来ていた。 

遊びに来たときは、彼女はいつも玄関を開けて「遊びに来たわよ~~~。母子いる~?」と言う。 
決まって母は「いるよ~。」と返事した。 
Y子さんは気分屋だけど気さくで、私もそのY子さんが大好きだった。 

あるときを境に、Y子さんの様子が変わった。彼女の夫の浮気が発覚したのだ。 
Y子さんが離婚をすることが決まると、病気の症状が現れた。 
突然泣き出したと思うと、いきなり激昂したり。話も飛び飛びで、何を話しているのかが分からない。 
Y子さんの親に相談し、彼女を病院に連れて行ってもらった。 
するとやはり、彼女が精神の病気に罹っていることが分かった。 
原因が原因なだけに、私達も出来る限りいままでどおりの付き合い方で彼女に接した。 
情緒が不安定なので、彼女はちょっとしたことで暴れだし、家が滅茶苦茶にされることもあった。 
そして、さすがに病気の症状が酷くなったので、ついにY子さんは鉄格子のついた病院に入院することになってしまった。 
入院によってY子さんが遊びにこなくなるのは寂しかったけれど、反面ほっとしたところもあった。 

そしてそれから何ヶ月か経ったとき、おかしなことが起こった。

「遊びに来たわよ~~~。母子いる~?」 

母と2人でテレビを見ていると、玄関からこの声が聞こえてきた。 

「お母さん、返事したらいかんばい。」 
「今の聞こえたやろ。Y子よね。」 

確かに私達は2人その声を聞いた。 
でも、その声は、マスクをした時の声みたいに篭っていて、 
とても生身の人間が発しているようには思えない感じだった。 

「私、玄関を見てくる。」 

母を行かせるわけにはいかない。母を見たY子は、何をするか分からない。 
ならば私が行こう、そう思った。恐る恐る玄関に続くドアの戸を開き、玄関を覗き込んだ。 
そこには誰も無く、また玄関の戸に影が映っている様子もない。 
Y子がいてもらっても困るが、いないのも気味が悪かった。

母にこのことを伝えると、 

「Y子も寂しかったのよ。もしかすると狐に化かされたのかもね。怖い話で、昔から狐憑きとかあるやろ。」 

と言った。いまどき狐に化かされるのか。、、 

夜、父にも相談してみた。 
「必ずしも全ての空間に同じ時間が流れているとは限らないんじゃないのか? 
たまたま過去の時間にあった玄関の空間と、その時の玄関の空間が入れ替わったんだよ。 
幽霊とかもそうなんじゃないかな。怪奇っていうのは過去の空間に一瞬繋がって、その時の映像が見えるだけだ。」 
と、父はそんな感じのことを言った。 

父の説明だと、この不思議な出来事にも納得がいく。でも、本当にそうだと疑問は尽きない。 
この時間の入れ替わった場所を人間が通ると、何が起こるか。 
もしかすると、その空間を通ることで、Y子の精神は現在に飛ばされてしまったのではないか。 
そして体は精神を失ったままの状態なんじゃないか。現在、精神はY子の体を探して彷徨っているかもしれない。 

でも父の説を考えてもしかたがない気がした。とりあえず我が家では母の説を採用した。 
もう二度と変なものが入りこまないように、今では柴犬が、私の家の玄関前で待ち構えている。