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小学校の頃、クラスの奴らと野球で遊んだ後に日課となっていた壁当ての投球をしていた時の話。 
当時俺はプロ野球が好きだったため、村田兆治のマサカリ投法や山内泰幸のUFO投法など色々真似しつつ熱心に投球。
 
ある日、人から聞いた話とチラッと見たうろ覚えな映像の記憶を頼りに阪神の村山実のフォームで投球をしていた。 
数十球くらい投げたところで阪神の帽子を被ったおっさんがネット裏からこちらをじーっと見ているのに気づき、一度中断。 
(近所の阪神ファンかな?)と思い、近付いていくといきなりこう言われた。 

「村山はな、もうちょい腰を落とさなアカンわ。せやけど、君なかなか似てるで。」 

初対面のガキにいきなりフォームのダメ出しなんて普通だったらなかなか強引なおっさんと思う所。 
しかし、当時の俺はそんなことよりも自分のフォームを見て一発で村山実と分かったおっさんに対してただ感心をしていた。 
そこから野球談義に花が咲く。今年は巨人がまた独走?とかホークスとライオンズはいい勝負しそうとかありきたりなものを。 
話しているうちに暗くなってきたことに気付いたのでおっさんに一言言って別れを告げた。 
その際、おっさんはこう言い返してきた。 

「また明日も同じ時間に来ればな、おっちゃんがホンマもんの村山のとこへ連れてったるで。」 

おっさん村山の知り合いかよ!?すげーなおっさん。心の中でツッコんで家まで急いだ。
次の日の朝刊、ふと見るとお悔やみ申し上げます。の記事がまず目についた。 

そこに書いてあった人のうちの1人の苗字は珍しいもので、それが学校の近所にいる人の苗字と一緒だったため若干興味津々。 
放課後、いつも通り野球して遊んだ後、おっさんの約束など忘れてその苗字の家まで何となく行ってみた。 
そこの家の前を阪神の帽子被ったおばさんがブラブラ歩いていたので声を掛けてみた。(今考えると非常識極まりないけど) 

「すみません。あの、ここの誰かが亡くなったんですか?」 

するとおばさん、微笑みながら阪神の帽子を手に取りこう言った。 

「ぼく、よく知ってるね。あの人はね、大の阪神ファンだったのよ。」 

その時、俺は見てしまった。悲しそうに語るおばさんの後ろ、開いていた玄関から見えた遺影の人物を。 
紛れもなくあのおっさんだった。俺は怖くなり、おばさんに礼を言ってからそこをダッシュで離れた。 

もし、その時間帯におっさんの言いつけ通り来ていたら………。考えたら軽くゾッとする。 
しかもその頃、当然村山実はこの世にいない人だった。