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神社の裏道を歩いていた時の事だった。 
小さな神社の境内はちょっとした公園になっていて、幾つか遊具が置いてある。 

ふと境内の方へ目をやると、男の子が一人しゃがみこんでいた。 

何をしているのか目を凝らそうとしたら友人が唐突に「こんにゃく凍らせると…」と言った。 
頭の中がこんにゃくで一杯になった瞬間、背後から男の子の声で「とーせんぼ、とーせんぼー…」と歌うような声が聞こえた。 
俺が振り向こうとすると友人がまた腕を引っ張ったので友人を見た。 
友人は凄く嫌そうな顔で正面を見ていた。 

俺達は神社の裏の細い道を歩いてた。 
片側は壁、もう片方は神社の境内で砂利が轢いてある。 
前には誰も居なかったのに、いつの間にか正面にあの男の子が立っていた。 

肌の色が異様に白くて痩せていたけれど、それよりもとにかく意地悪そうにニヤニヤ笑っている顔が気色悪い。 
そう思ったらそいつの顔が小学生の頃のいじめっ子に似てる気がした。 

男の子が俺に視線を向けた瞬間、友人が俺の背中にサッと文字を書いた。 
あんまり驚いたのでまた友人を見た。 

男の子はまた知らない顔に戻って怒ったような顔で友人を見た。 
それからまた「とーうせんぼー、とーせんぼー」と歌いながら此方へ一歩近づいてきた。 
後ずさりしようとしたら友人が俺の背中に手を添えた。

その手が気になって俺は友人の事ばかり考えていた。 

男の子は俺と友人の両方をじろじろと見て、それから「あーそびましょ、あそびましょー」とまた歌った。 
聞いた事の無いメロディだった。 

友人は俺の上着の背中を握り、男の子を見てた。 
男の子は俺の方を見上げて、ケキャケキャケキャキャキャ…という鳥のような耳障りな声で笑い、 
また「あーそびましょー、あそびましょー…アメクモミクモヤマミクモ、クモノナントカケモノノナントカ…ケモノが咥えてトオニヒキサキ食べました。けれど満腹まだ遠い、ヒャクにするのにナントカし、まだ足りないから千に砕いて粉にした」 
こんな感じの歌を歌った。 
所々しか聞き取れないのに、引き裂いたとか砕いただとか、そういう所は鮮明に聞こえてくる不思議なメロディだった。 
そして俺の顔に息が掛かるくらい近づいて、ギョロッと目玉を見開くと「引き裂かれたものなーんだ」と楽しそうな声で問いかけてきた。 

一瞬頭が真っ白になって、友人の手を握った。 
その瞬間、男の子がニタァッと笑って、俺の手の中から友人の手の感触が消えた。 
驚いて隣を見ると、友人の自転車がガシャンと倒れ、友人の姿が消えていた。 
前を見ると男の子はいつの間にか数メートル先にしゃがみ込み、何か赤黒いものをぐちゃぐちゃかき回して遊んでいるように見えた。

訳が分からなくなって周囲を見ても友人は見付からず、こんなに大きな音がしたのに誰も出てこないし何も聞こえない。 
パニックになっていると、また男の子の声がした。 
「お兄ちゃんの宝物もーらった」 
ケキャケキャケキャキャキャ…またあの耳障りな笑い声がして、男の子が足元から人間の頭を両手に抱えて此方に向けた。 
友人の頭だった。 
首からはまだ血や肉片が滴っていて、俺は悲鳴も上げられないままただ口が乾いてひゅうひゅういった。 

「あーそびましょ、あそびましょー」 
また声がした。 

次は俺がああなるんだと思って覚悟を決めて正面を向くと、男の子が驚いた顔をして友人の生首を見詰めてた。 
ああ、友人の声か、と俺は何故だか驚くよりも安堵した。 
生首が歌ってるのは気色悪い光景だけど、その時は少しも恐いなんて思わずに、ああ、やっぱりこれも夢なんだ… 
くらいにしか思わなかった。 

友人は男の子に向かってあのメロディーを、多分同じフレーズで歌い、それから「粉になったのなーんだ」と遊んでるような声で問いかけた。 

男の子はとても悔しそうな顔をして砂煙みたいに消えてしまった。 

気付くと俺は腰を抜かしていて、それから友人に手を引かれて立ち上がるとケツやら背中の砂を払い落とされた。 
あれは何かと訪ねたけれど、友人は「さあ」というだけで詳しく教えてはくれなかった。 
ただ、いつものように俺を家まで送り届けながら冗談を口にして、それからいつものように自転車に乗って帰って行った。