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深い山を歩いていた時のこと。 
熊笹を掻き分けていると、小さな広場に出た。 
石畳を何枚も敷き詰めてあり、此処だけ草が生えていない。 
その上の至る所に、小石を積み上げた山がある。 

「あ、ここってもしかして、賽の河原か」 
そう思ったが、しかし考えてみると色々おかしい。 

ここは普通の人はまず来ない山奥だ。 
一体誰が石を積んだのだ? 
敷いてある結構な数の石畳は、何処からどうやって持ってきた? 
近くに石場など無いし、これ一枚でもかなりの重量がある筈だが。 
人の手が加わっているのは間違いないが、それならば賽の河原に 
付き物の地蔵が置かれていないのが不自然だ。 

どうにも足を踏み入れる気になれず、そこから離れることにした。 
数日後、帰りにもそこを通り掛かったので、もう一度覗いてみる。 

積み上げられた小石が、その位置と数を変えていた。 
誰かが丁寧に積み直したかのように。 

やはり足は踏み入れずに、さっさとそこを後にしたのだという。