KUMA1892104_TP_V

秋口の山に、単独で入っていた時のこと。 
そろそろ寝ようかと、まだ新品だった一人用テントの中でシュラフを広げていると、 
背後で聞き慣れた音がした。 

放屁の音だった。 
しかしその時、先輩は屁などしていない。 
仰天している内に、やがてゆっくりと、しかし確実に、厭な臭いが迫ってきた。 

「どこのどいつだ、俺のテントで屁をこきやがったのはっ!?」 
我に返ると逆上してしまい、テントから勢いよく飛び出すと、中に風を送り込んだり、 
周りの闇に向かって威嚇の声を上げたり、地面を転げ回ったりしたという。 

「それ以上、変なことは起こらなかったけどな。 
 でもあの時の犯人、絶対に芋か牛蒡食ってたぜ、腹立つわ~!」 
一発でいいから殴ってやりたかったと言う先輩の目は、正直怖かった。