キャンプ場で一緒になった登山者から、こんな話を聞いたという。
「その昔、ここいらの山には化け物が出たって言われてたんだ。
山道を歩いていると、いきなり足が地面に縫い付けられたようになって、
もんどり打って転けてしまう。
何だ何だ?と足下を確認すると、いつの間にか草履に太い釘が打ち込まれていて、
しっかりと大地に固定されているんだと」
「『槌お化け』と呼ばれたその化け物は、誰にも姿を見せたことがないんだって。
今は出たっていう話なんか聞かないけどね。
昔の草履と、最新の登山靴とじゃ、勝手が違うんだろうさ」
そう聞かされて、一緒になって笑ったが、ちょっとだけ気になることがあった。
「そこのキャンプ場でテントを張るとね、ペグが何本か、がっつりと頭まで
土の中に埋まっていることが時々あるんだ。
誰かの悪戯だと思ってたんだけど、この話を聞いてから、嬉しそうに槌を振るって
ペグを打ち込んでいるお化けの姿を想像しちゃって……」
彼はそう言って苦笑した。
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