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彼の実家は山間で稲作を営んでおり、毎年刈り入れ時期には手伝いに向かうのだという。 
籾殻を溜めておく一角で作業をしていると、動く物が目に入った。 

今積み上げたばかりの籾殻の山、その表面がスッと盛り上がって走り出す。 
少し浅い位置を何かが滑りながら移動しているかのような、そんな印象を受けた。 

手にしたスコップで攫ってみる。 
確かに動いていた部分を掬い取った筈なのに、籾殻の中には何も確認できなかった。 
いつまでもそれに掛かり切る訳にもいかず、気にしないことにした。 

その夜、実家の者に籾庫で見たモノのことを話してみた。 
家族の話によると、収穫の頃によく見られるが、正体はわからないということらしい。 
実家ではアレを昔から“ワニ”と呼んでいるのだという。 
ワニとは鮫のことだ。 

「成る程、確かに籾の海を泳いでいるようなイメージだったな」 
聞いてからそう感心したそうだ。