KUMA1892013_TP_V

一人で入山していた、初夏の朝。 
目が覚めてから、朝の空気を吸いに顔をテントの外へ突き出してみる。 

そこに見えたのは、記憶にあった山の風景ではなかった。 
辺り一面、見渡す限り金色の海が広がっている。 
たわわに実った稲田の真ん中で、彼はキャンプしていた。 

テントの中に顔を戻し、混乱した頭を必死でまとめようと努力した。 
……駄目だ。何故自分がこんな場所にいるのか、さっぱりわからない。 
季節も場所も、まったくあり得ない状況である。 

とその時、テントの外から間延びした声が掛けられた。 
「あー、間違えた間違えたー。御免、御免よー」 
誰だ今の!? 慌ててもう一度、顔を入り口から突き出す。 

そこは記憶通りの、新緑に覆われた山の風景に戻っていたという。 
周りには誰の姿も確認できなかった。