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実家はすごい田舎で、田んぼに水をひくためき整備された水路がたくさんあったんだ。 
小学生の俺は水路の大部分が暗渠になってることもあって、怖くて近寄ることはあまりなかった。 

田植えがもうすぐはじまるころ、暗渠になってるところから、バシャバシャバシャバシャ音が聞こえてきた。なんだろう?と思って暗渠のなかを、上からのぞいてみた。 

けど、誰もいなかった。 

でっかい魚でもいるのかなと、好奇心から暗渠の中に入ってみることにした。水位は足首くらいで、危険は感じなかったんだけど、50メートル以上続く、暗く、湿った暗渠の雰囲気に俺は飲まれていた。

でも、好奇心が優ったんだ。 


10mほど進んだころには、目の前は真っ暗で、四つん這いになりながら進んでいた。 

そこらへんでおかしなことが起こった。 

バキボキとなにかをかじるような音が、10メートルくらい先から聞こえてきたんだ。

ここで、魚なんかじゃないなにかがいるのを、本能的に確信していたわけだが、俺は自分から出る音を殺しながら、それに近づいて行った。 

相手に気付かれずに、5mほどまで、距離を縮めることができたが、そのとき、手に触れたものを手にとった直後、俺は悲鳴を上げながら、元来た道を引き返した。

俺が触れたものは、所々かじられた人間の指だった。 

俺は物心ついたころから、暗渠の中へは入るなとことあるごとに、言われてきた。 
暗渠にはいるまで、あぶなくないのに、なんではいっちゃだめなんだろう、と思っていた。 
暗渠に入って起こった出来事を婆ちゃんや親に話せば、いままでの関係がおかしくなってしまうんじゃないかと、思っていた俺は今日までこのことを誰にも話せなかった。 

明日、二十年近く村の長をしてる、婆ちゃんに、暗渠の中に何があるのか聞いてみようと思う