008KAI319_TP_V (1)

食事を中断して弟と共に2階へ。 
夕飯食うためリビングへ降りる際に電気を消していたので、弟の部屋は真っ暗。 

その中でダビング作業中のテレビのブラウン管だけがぼやーと光を放っている。 
その画面に映っていた映像を見て、俺は卒倒しそうになった。 
ところどころノイズが入った粗い画質の中、目を見開き、口を大きく開けたまま首を横に傾けた女の顔が 
画面いっぱいに映し出されているのだ。 

その瞬間、俺は録画に失敗した日のことを思い出した。 
翌日以降の録画には何も問題がなかったのですっかり忘れていたが、これはその時のビデオテープだ。 
弟と暫し無言でその映像を眺めていた俺は、ハッと我に返った。 
平静を装いつつ、「あれー?何かダビング失敗してるわぁ」とか言いながらビデオデッキのリモコンを取り上げ、停止ボタンを押す。 
反応が無い。ボタンをいくら押しても映像が止まらない。 
デッキのカウンターは数字でも英字でもない表示が付いたり消えたりしている。 
DVDのリモコンも同様に無反応。のみならず、チャンネル変更や電源ボタンなどのあらゆる操作を一切受け付けない。 

俺はコンセントに刺さったコードを、タコ足プラグごと引っこ抜いた。 
「ブツン」という音と同時に部屋の中のあらゆるAV機器の電源が落ちる。 
ブラウン管の灯りだけで照らされていた部屋は途端に真っ暗になり、俺は慌てて部屋の電気を付けた。 
すっかり気が動転してしまっている弟。俺も心臓バクバクだったが、「とりあえず飯食おうぜ」と平静を装ってリビングに戻った。

その後は大変だった。件のビデオをデッキから取り出そうとすると、ヘッドにテープが絡まって全然出てこない。 
強引に引き抜いたものの、ビロビロと吐き出されたテープをデッキから取り除くのに悪戦苦闘。 
ドライバーやら何やらで何とか作業を完了させた後、テープはまとめてゴミ箱へ。 
その後、DVDの方を確認。ダビング作業は途中で中断されてるだろうけど、内容が気になる。 
そこでまた仰天。チャプター画面のサムネイル画像が、先ほど映ってた首を傾けた女の顔。 
しかも10数個に分割表示された全ての画像が、同じ女の顔で埋め尽くされている。 

すぐさまDVDデッキの取り出しボタンを押す。 
ビデオとは違ってスムーズに出てきてくれたそれを、両手で思いっきり力を込めて真っ二つに。 
先ほどゴミ箱に捨てたビデオテープと共に紙袋に詰めた上で小さく折りたたみ、ガムテでグルグル巻き。 
台所に居た母に「これ捨てといて」と言って手渡した。 

以来あんなにハマっていた番組への熱がすっかり冷めてしまい、録画はおろか視聴すらしなくなってしまった。 
その後しばらくして再び引っ越しをしたため、今はあの番組の放送局を受信できない地域に住んでいるけど。 
こっちでもネット放送か何かで深夜に放映されているので、何の気無しのザッピングでチャンネルが合うたびにドキッとしてしまう。