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一言で言うと俺馬鹿でね 
ただ、大学入試の時だけ極めつけに運がよかった 
山張ったわけでもないけどさ 
記念受験のつもりでうけたとこの試験問題が 
その年はそれなりにわかるものだった 

それが不幸だと気づいたのは留年を重ねた時 
ガリ勉だらけの学校みたいなイメージが世間様にはある 
そんなレベルの高い大学にいたんだけど 
実際ガリ勉で通した連中でも最後の学生生活は遊びたいッて思うんだ 
だってこれまで一生懸命やってきたんだぜ?ご褒美くらいはなあ… 
そういう連中とマグレで受かったやつが同じペースで遊んでて 
うまくいくはずがなかった 

一一二二 
両親が選んだのは三年の前期をまるごと私塾に通わせることだった 
叩きなおして欲しいってことだよ 

あんまり詳しく語ってもあれだけど 
似たような境遇の仲間がいて居心地が良かった 
あと、にこにこと嘘のなさそうな笑みを浮かべながら 
自堕落なやつは死ねと言ってくれる塾頭にも、不満はなかった 


ある夜、一部屋十二人の割り当ての部屋から抜けだした 
月と雲を見上げながらひどいホームシックにかかった心を慰めてた 
ホームシックって、後悔からも生まれるんだな 
あんな温かい家庭に戻りたいっていう気持ちはありがたさと共存してた 
俺は、塾の生活を通して、一留までは許してくれた家庭のありがたさと 
これ以上迷惑かけるもんかっていう決意はできてた

なんで言えなかったのかな 
俺、この大学に通うレベルじゃないんだって 
周りに流されやすい性格で、友達と一緒に学んでると 
おいつかないんだ 
学ぶべきは断り方だったんだなって気づいて 
それが出来ないならこれ以上親に迷惑掛ける前に転校すべきだと結論は出てた 
それはとっても恥ずかしいことだった 
でも決意はできてた 
ここにきてよかったのかもなあ、なんて思ってた時だよ 
ふと視線を感じた 
振り返って、一気に気持ちが冷えていった 

そこに机に向かって勉強する俺がいた 
その背後に、父と母の鬼のような形相があった 
おれはそれを幻とおもったけれど 
両親のあまりの恐ろしさに気を失った 

塾頭にきくと、たまに真実ってやつを見ぬく生徒が出るらしい 
記念受験なんていったけど実際は受けなさいとしつこくいわれての受験だった 

塾を卒業して実家に帰った後 
あんな偶然で受かった大学のレベルはついていけないと正直に打ち明けた時 
ふたりとも自分の事しか語らなかった 
あなたがK大に受かったことで母さんごにょごにょ 
父さんはもうK大で頑張ってる息子が卒業したらうちでごにょごにょ 
ふたりとも世間体のことしか言わなかった 

塾のあるとこは開発に失敗したホテルの跡地 
元々は麓の人達の憩いの場のような公園とも広場ともつかないものがあったらしい 
そういう陽気が、俺を助けてくれたのかもしれない 
自分の両親が、子供をただのステータスにしか思ってない 
こういうの直面すると、結構きつかったよ

結局あの塾で何があったかなんてわからない 
ただ、あの鬼の顔の両親も 
転校を切り出した俺を、世間体しかきにせずに詰った両親も 
本物だった 

今ではボランティアで塾に顔を出す身だけど 
この五年で二人 
俺と似た、なんだか身近な人の裏の顔を暴くような 
そんな経験をした生徒がいる 

五年で六十人以上はいるから、確率は低いんだけど 
あの塾か、それともあの土地か…何かあるのかもしれない 
ただ、直面しなきゃいけないものを見せてくれたことには感謝してる 
小さい頃無意識に慕ってた親が、慕う理由のかけらも見当たらないものだった 
幻想を打ち砕かれた感覚と、罪悪感と、色々入り混じってつらいけど 
多分俺は幸せなほうなんだろう 

皆、自分の両親が本当に敬うべきものだとおもう?