KAI428020_TP_V

自転車で走っていた時、ヒソヒソ声が耳に入ってきた 
振り返ったら大きめのゴミ収集ボックスがあったから 
物陰に誰かいたのかなと思ってやり過ごした 

でも、5秒くらいしたらまたヒソヒソ声が聞こえてきた 
左耳の後ろ至近距離。ありえない走ってるのに 
ドラゴンボールの歌で景気つけて立ちこぎしたら、チェーンが外れたのか転倒した 
路上で身悶えている間も耳から声が離れない。同じ位置で同じ調子 
(未然連用終止連体仮定命令!未然連用終止連体仮定命令!) 
必死に唱えた。錯乱してた 
だんだんヒソヒソ声に輪郭ができてきている

意識を内向きにしようと無理やり何でもいいから考えた 
逆に声がクリアになっていく 
わかった。子どもの声だ。もう近いなんてもんじゃない 
頭を少しでも動かしたら唇が耳に触れる。絶対そうなる 
不意におじさんの声が割り込んできた 
目の前におじさんがしゃがみこんでいた 
上半身を起こして、おじさんと向かい合ったら隣にあの収集ボックスがあった 
少なくとも50mは移動していたはずなのに 
「自転車で転んで…」と言いながら周囲をみると自転車がない 
怪訝そうなおじさんに礼を言って起き上がり、とりあえず歩いた 
声はもう聞こえなかった 
自転車はずっと先に転がってた