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ああ、人間じゃないなって気付いてすぐに、先輩は扉を閉じた。 
B先輩が、様子がおかしいことに気付いてどうしたって声をかけてきたから、 
A先輩は自分が見た物をそのまま伝えて、2人で話し合った結果 
「夜は入らない方がいい」 
という結論に達して、5階大清掃計画は半ばまで進んだところでおじゃんになった。

先輩達がそんな思い出話をしてくれて、自分達は顔を見合わせた。 
その体験談は話してくれた時の大体2年前くらいのことだったんだが、 
それから、色んな生徒が、結構な頻度で、 
白いワンピースの女を見ているのだ。 
自分も見た……というか、20人くらいは目撃していた。 
共通点は、白い肌、白いワンピース(場合によっては上半身が見えないのでそれっぽいもの)、女、 
黒髪ロングのストレート。日本の幽霊像のテンプレみたいな感じだ。 
ただし、ほとんどの場合余り危険を感じないというのも共通している。 
いわゆる浮遊霊みたいなものだと皆が納得していた。 
でも、事件は起きた。 

学校の裏門を出てすぐの道の向かい側に、山の中に埋もれた 
小さな神社がある。寂れてて、氏子なんて絶対いないような 
神社っていうよりほこらっていったほうが正しい感じのが。 
長くて狭くて小っちゃい石段を越えると粗末な鳥居の先にあるのな。 
寮生の間じゃちょっとした逢い引きスポットと化してたんだ。 
ある日、何の気なしに後輩(以下C)がそこに向かった。 
ただの暇つぶしのつもりだったんだろう。

その石段の前に白いワンピースの女がいた。 
すぐに噂の奴だと気付いて、Cは目を合わせないように俯いたそうだ。 
俯いたら当然相手の足しか見えない。 
なのに、何故か、女の視線がこっちに向いたと分かった。 
Cは急いで裏門に戻って振り返らずに学校へ戻った。 
学校の玄関口に入るまで、背中をずっと視線が追ってきたという。 
その話を聞いて自分も含めてほとんどが、 
「あの女なら大丈夫だろ」 
とCを宥めていた。 
今思うと無責任なことを言ったと思う。 
Cは確かに、「やばい」と感じていたのだから。

次の日、Cは、4階から飛び降りた。 
死にはしなかった。偶然にも、渡り廊下の屋根の上に落ちたので 
クッションが効いたのだと教師は説明していた。 
だけど、Cの右腕は肩から切り落とされた。 
後日Cから話を聞いた所によると、窓から外を眺めていた時に、 
背中から、突然、女の視線が湧いたそうだ。 
視線が湧くなんて意味が分からないが、感じたままに表現するとそうなるらしい。 
咄嗟に逃げようとしたが、振り向くことも出来ず、 
結果的に、視線に押される様に窓から身を投げたのだと。

その女は今も寮に、特に自分が住んでいた寮の5階にいると聞いている。 
困ったことに、自分の在学中に5階は大幅なリフォームがされ 
明るい部屋の並んだ階となって、寮生達も部屋として使うようになったのに。 
ふと目を覚ますと、窓際に見えるという。 
女の足が。 
Cの事件以来、後輩には、 
女を一瞬でも見たら絶対に近づくな、目も合わせるな、自分がいることを気付かれないようにしろ、 
と伝えるのが、一種の伝統になった。 
フェイスブックなんかで後輩の話を聞くに、あれ以降被害は出てないらしいが。 
それでも、女を見る生徒の数は、増えるばかりだ。