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アメリカへ家族で出張していた時のことだ。 
長期休暇を利用して、職場仲間の家族とサマーキャンプへ出掛けたのだという。 
キャンプは楽しく過ごせ、彼の家族も喜んでいたのだが、最終日の前日、 
子供たちが口々に「おかしなものを見た」と言い始めた。 

「エレファントマンがいた!」 

子供たちは興奮したような口調で、そう声高に叫んでいた。 
聞いてみると、森の端から大きな黒い人影が、テント地を覗いていたという。 
人型ではあったが服は着ておらず、黒い皺だらけの肌は、とても人間のものとは 
思えなかったらしい。 
更に不気味なことに、そいつの顔からは、まるで象のように長い鼻がずるりと 
下がっていたというのだ。 

そのためアメリカ人の子らは、そいつのことを「エレファントマン(象男)」と 
仮に呼んだのだが、彼の子供だけは自信たっぷりに、次のように言い切った。 

「アレは忍者怪獣サータンだよ、僕テレビで見たから間違いない。 
 アメリカにもいたんだね」 

そう言って片時も離さない、ウルトラマンの怪獣図鑑を見せて説明してくれた。 

「おい、本当にそんな風体の怪物が見えたっていうのか!?」 
「いや熊を見間違えたのかもしれないぞ」 

何にせよ、かなりの大きさの動物がいたことに違いはない。 
大人たちがバタバタと撤収を急ぎ出す横で、子供たちはニンジャという響きが 
気に入ったのか、「エレファントニンジャ」を見たと盛り上がっていた。

帰宅してから後、顔見知りの自然保護官と飲んだ際、この話をしてみた。 

「やっぱり、何かの野生動物を見間違えたんだろうけど。 
 でも結構大きい動物が、家族の周りを彷徨いているっていうのは怖いしね。 
 予定を一日切り上げて帰って来ちゃったよ」 

そう笑いながら話したのだが、しかしインディアンの血を引く保護管は、 
真面目な顔をしてこう返してきた。 

「うん、恐らく身間違えなんだと思うよ。 
 あの辺りでは野生動物による害って報告されていないし。 
 でもね、少しでも危ない予感がしたら、即対応するのが当たり前だよ」 

更にこう続ける。 

「確か、イロコイ族の一氏族だったと思うんだけど、彼らには奇妙な怪物の 
 言い伝えがあるんだ。 
 彼らで使うインディアン語の名前もあるんだけど、そこまでは知らない。 
 僕が知っているのは『ロング・ノーズ(長鼻)』っていう呼び方だけだな。 
 長い鼻が特徴的な、大きな人型の怪物なんだって」

それを聞いた彼は、 
「へぇ、捕まえていたら一躍スクープだったかも」と冗談めかして答えた。 

保護管続けて曰く、 
「止めといて良かったと思うよ。 
 こいつ、伝わるところによると、子供喰らいらしいから」 

このロング・ノーズという怪物、人間の子供ばかりを襲って掠うのだそうだ。 
足がとても速く、人一人を抱えているのに、どの戦士も追い付けないという。 
一度掠われたらまず手遅れで、人数を集めて山狩りをしても、貪り食われた 
子供の遺体が森の中に見つかるだけ。 
嗅覚が非常に鋭いようで、人の匂いを嗅ぎ付けると、姿を隠してしまう。 

「だからその氏族の者たちは、酷くこの怪物を恐れていたそうだよ」 

そういう保護管の説明を聞いている内、全身に鳥肌が立っていたという。 
その後の酒の味は、よく覚えていないそうだ。