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大学の入学祝いに叔父から腕時計をもらった。 
ベルトは安っぽい革製、白い文字盤にバーが振られているだけのシンプルな作りでブランドもどこかわからない。 
到底高価なものには見えないのだが叔父は役に立つだろうから絶対身に付けておけという。 
叔父は旅行が好きでその先々で変わったものを買うのが趣味だったからこれもそんなものの一つだろうと思った。 
俺は腕時計に特別こだわりがあるわけでもなかったのでとりあえずはその腕時計を使うことにした。 

大学に入って半年ほどが立ったある日のこと。 
俺はサークルの仲間と夜遅くまで遊び歩いていた。 
午前二時頃に解散となり俺は家路についた。 
俺の下宿先は他の奴らとか違う方向にあり俺は必然的に一人となった。 
誰もいない住宅街を一人歩いていると突然けたたましい音が鳴り響いた。 
俺は何事かと思い辺りを見回した。 
特に何か音を発しているようなものは見とめられなかった。 
よく聞けばその音は俺のすぐ近くから鳴り響いているようにも思える。 
そこで気づいた。 
音をあげていたのは左腕につけた腕時計であった。 
アラーム機能でもついていたのかと思い街灯の下まで行ってリュウズを弄ってみたが一向に鳴り止まない。 
そもそも今までこんなことは一度もなかった。 
俺は不思議に思いつつもそのうち止まるだろうと思い顔を上げると。 
そこには女がいた。 
五メートルほど前方。さっき辺りを見回したときは誰も居なかったはずなのに、何もないから浮かび上がったとでもいうかのようにそこに現れた。 
女はずぶ濡れだった。雨は降っていないし、海や川が近くにあるわけでもない。 
薄暗く長い髪が顔にかかっているため表情は読み取れなかったが明らかに異質だった。

腕時計は依然鳴り続けている。 
俺は恐ろしくなり女から目をそらさず一歩後退した。 
すると女も距離を保つように一歩前進してきた。 
その後も俺が下がるたびに女は俺に向かって前進してきた。 
それを十回ほど繰り返しただろうか。 
丁度女がさっき俺が立っていた街灯の下まできた。 
そこで初めてわかったことが二つある。 
女が滴らせているのは水なんかじゃなくて真っ赤な血であったこと。 
そしてもうひとつはその右手に同じく真っ赤な血を滴らせた包丁を持っていたこと。 
それを見た瞬間俺は女に背を向けて一目散に駆け出した。 
走りながら振り向くと女も俺を追って駈け出していた。 
俺は全力で走ったが女との距離はだんだん縮まっているようだった。 
そしてついに追いつかれるというその時、左腕につけた腕時計のベルトが切れて床に落ちた。 
すると女は地面に落ちた腕時計の前で止まりそれ以上追って来なかった。 
俺は息を切らしつつ大回りして家に辿り着くと布団をかぶって朝まで震えていた。 
幸い女が俺の家まで来ることはなくそれ以降もその女には出会っていない。 

その後正月に叔父に会ってこの話をしたところ 
あの腕時計にはその手をものが迫ると警告してくれる機能、いざというときその手のものを足止めする機能があったらしい。