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親父が高校生の時の話なんだけど、大晦日に初詣に行こうと友人と二人で地元にある大きい寺へ行ったんだと。 
そこの寺は大きいだけあって、その年の大晦日の夜は人で賑わっていたそうだ。 
寺には鐘がありそれは本堂からは少し離れた場所で、敷地内の端にある階段を上って行った先にある。今はお金を払うと鐘撞く事ができ人も訪れるが、昔はあまり人が寄らない場所だったそうだ。 
その日そこへ二人はなんとなく行ったらしく、今から話すことはその鐘撞き堂での話になる。

鐘撞き堂は階段を登りきってから少し先にあり、今は整備されているその堂の周りは草が生い茂っていた。 
親父たちは何も考えることなくなんとなく階段を上っていき、 
先をみると鐘撞き堂の奥の草の茂った山の方から一人の男がこちらへ下ってきた。 
その時、大晦日で賑わっている境内にも関わらず鐘撞き堂にはその男と二人しかいなかったらしい。 
大晦日に一人で人気のないところにいるなんて変だとは思ったが、 
カップルがケンカでもして一人でいるんだろうとその時は思ったそうだ。

そのため見つけた時は人がいるなぁくらいにしか思わなかったそうだが、 
男を見てみると足を引きずるような感じでくねくね歩いていて、 
なんか気持ち悪い奴だと思って立ち止まったそうだ。 
すると二人の方へどんどん近付いてきて、男は自分たちの前で止まったんだと。 
その男は二人に何か言うのでもなく、上半身を動かして自分たちの顔をジロジロと見てくるらしい。 
目をギョロっとさせて、 
ゆっくりと上半身を左右に動かし、 
二人の顔を交互に見てくるんだと。 
気味の悪い行動に、なんとなく動けないで二人は立ち尽くした。

友人「おい親父、今、お前の方を見ているよな」 
親父「ああ、見てるな」 
友人「今は俺の方を見てるな」 
親父「ああ、お前の方を見てる」 
そして親父はこの男がキチガイ頭のおかしいやつだと思い、このままいたらヤバイと判断し逃げることにしたんだと。 
親父「おい…こいつちょっと変だから逃げよう」 
友人「…そうだな」 
そうして、親父は手を繋いで逃げることを提案した。

お互いの外側の手を握りあえば、お互いが後を向いても手が離れることはない。 

親父「良いかこのまま手を離さないで後を向いたらすぐに走って逃げるぞ」 

と言って、そのまま手を繋いで走って階段を下りて逃げたらしい。 
走って逃げている時、丁度良く俺達を追うに風が吹いて草がザザザザっと波立って気味悪かったと言っていた。 
そのあとは、とくに男が追い懸けてくることもなく無事逃げきる事ができた。 
そして話はそれから40年以上過ぎた今年、進展した。

その友人は毎年恒例行事のように、年を越してすぐに家にやってきて早朝まで麻雀をしに家にやってくる。 
今年も変わらず、その友人は我が家にやってきた。 
親父が中学だったころからもう40年近く超える年月だ。 
友人「俺らが高校のころ寺に初詣に言っただろ。」 
親父「毎年行ってたよな。」 
友人「鐘撞き堂でのこと覚えているか」 
そして、その長い年月を超えてその当時の新事実がわかった。

親父「ああ、覚えてるよ。あれ気持ち悪かったよな~!ほんと!あ、それで違う話になるけどさあ…」 
友人「ちょっと待って親父。俺何回かこの話をしてるんだけど、 
   お前毎回そうだったなって言ってスルーするよな。 
   ちょっと今回はもうちょっと話してもいいか」 
親父「ん?ああ。」 
友人「いや、だからあのとき俺ら鐘撞き堂に行っただろ。」 
親父「ああ、あいつ俺らのことジロジロと見てきて気持ち悪かったよな。 
   なんか懐かしいな~。こうぬぅっとこっちに顔を向けてきてジロジロ見てきてな。 
   お前と俺と交互に見てきてな。」 

友人「そうそれ」 
親父「あー。思い出してきた。あいつ山の方から降りてきてな。 
歩き方も変だったし、なんか頭のおかしいやつだったよなー。 
そのあと、二人で男同士で手を繋いで逃げてなw 
そんで逃げてる時に気味悪い風とか吹いちゃってな~」 

友人「え…お前、見えてたのか?」 

親父「おう?そりゃ見えてた、というか見てたよ。」 

友人「いや親父…あのな俺は見えてなかった」

親父「は?何言ってんだよ。あいつ鐘撞き堂の奥の方からフラフラ歩いてきて 
   気味悪い奴だなって思ったから二人で立ち止まったんじゃないか。」 
友人「ああ立ち止まったな。 
   けど、俺は嫌な感じがして足を踏み出すことができなかったんだ。」 
親父「んっ?どういうことだ?」 
友人「あの階段を上って行っただろ、俺はずっと嫌な感じがしてたんだ。 
   お前が気にしてる様子がなかったから続いたけど。 
   登りきってある一線を越えた時にここはガチでヤバイと思って立ち止まったんだよ。 
   お前も同じ様に立ち止まったからやっぱり同じ様に嫌な感じを感じ取ってたのかと思った。」

親父「え、いやだってあいつ俺らの事ぎょろぎょろと見ていだろ。 
   お前も俺にこっち見てるなとか確認してたじゃねーか」 
友人「ああ、確かに見てたよな。ただ、俺はこっちを見てるなと感じていただけなんだよ。」 
親父「え、あれは人じゃなかった…ってことか?」 
友人「俺は人がいたなんて一言も言ったことないだろ。 
   逃げる時覚えてるか?あの時はなんか見えてたか?」 
親父「いや、なんも見えてなかった。 
   ただ、風が吹いて不気味だったくらいで。」 
友人「じゃあお前は見えてなかったんだな。 
   まあ、俺も見えてはなかったが逃げてる時もあいつの気配を感じていたんだよ。

友人「あいつな、間で俺らを抱えるように肩に手を回してな交互にずっと俺らの顔を見てたんだ。 
   左右に顔を振って、ずっと見てた。あの風が吹いてる間ずっとだよ。 
   それで、途中で風がピタッやんだよな。」 
親父「ああ、そういえばそうだったな。」 
友人「風がやんだら、あいつもいなくなったんだ。 
   それで俺はとりあえず助かったんだなと思ったんだよ。 
   いやー…お前があいつを見ていてたなんて、まさかただの人だと勘違いしてたなんて気づきも
   しなかったわ。」

友人はそんな怖い心霊体験をしたのにもかかわらず、その話をしても軽く流す親父を不思議に思っていたらしい。 
最初は思い出したくないのかと思ったけど、あまりにスルーされるんで、あれは俺だけしか見えてなかったのか?と、 
そして時間が経つにつれてそもそもそんな事はなかったのか?と思うようになったらしく、今回はしっかり聞くことにしたんだと。 
親父的にはちょっとした恐怖体験なのでこいつちょいちょいこの話してくるなーとしか思ってなかったそうだ。今回その話をされてかなり衝撃を受けていた。 
40年越しの新事実に、なんだよ俺幽霊見ちゃってたのかよ!と何故かテンションあがってた。

親父が言うにその男はニタァっと気味の悪い笑みを浮かべていたらしい。