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息を止めて箱罠を除くと、中にいたのはぐちゃぐちゃに腐り果て、その上の旱天に日干になった、見たこともない大グマだった 

いまだがつてこれほどの大グマにはお目にかかったことがない 
惜しいことをした、面倒臭がらずに回収しに来るんだった……と思いながら箱罠を開け、 
中からクマの死骸をひきずり出した瞬間、老人ははっと息を呑んだ 
ズルリ、と箱罠から出てきたのは、クマの死体だけではなかった 


あろうことか、中から、あの自分が取り逃がしたはずの片目の大イワナが出てきたのだという 
おかしい。偶然にもあの大水の時にこのイワナがこの箱罠に迷い込むかしたとしても、その後の旱天で干物になっているはずである 

しかし、箱罠から出てきたのはどこも干からびておらず、それどころか、 
本当にたった今まで谷川を泳いでいたのではないかというほどに、不気味に綺麗だったそうである 


そのうち、これは通常有り得ないことであるという理解がやってくると、 
イワナの潰れた目に睨まれた気がして、急に怖くなったのだという 

老人は血相変えてその大イワナを掴み、沢に降りるや水に浮かべた 
何度も何度も水をかけ、「生ぎでけろ! 生ぎでけろ!」と呼びかけたが、ダメだった 

老人が手を離すと、大イワナはブワーッと水面に浮かび、沢の下流へと流されていって見えなくなった 

その後二、三日の記憶はどうも曖昧だ、という 


しばらくして家族から聞いた話では、箱罠を回収しに行ったはずの老人が手ぶらで、しかも真っ青な顔で帰ってきたので、 
家族が何があったと問い詰めても老人は何も話さず、うつろな目で焼酎を煽り、 
何かブツブツとうわ言を呟きながら寝室の布団に寝込んでしまったのだという 

「あの時は俺も、何だか魂抜かれたような気がして、気違いみでぇになってよ…… 
あの時、遊びで殺生してんのを、誰かに怒られたのではねぇがって思ってな……」 

マタギの老人はそれ以来、ぷっつりとイワナ釣りをやめてしまったのだという 

何だか不思議な、山と川のお話。