HODdad_TP_V

それから暫くの間、不審な出来事は起きなかったが、ある夜のこと。 
土日だったのか、授業をサボったのか忘れてしまったが、 
俺は昼間のバイトで疲れてベッドで眠っていた。 
音が聞こえる。自転車の走る「シャーッ」という音。 
音には動きがあった。部屋の中で円を描くように動いている。 

夢ごこちの俺は 
「部屋の中で自転車が走っているなぁ」 
と思っていた。 

すぐに意識が戻った。そんなことはあり得ない。 
部屋で何が起きているのか確かめようと体を起こそうとしたが 
できなかった。 

金縛り…ではないと思う。 
身体がベッドのマットレスに沈み込んでいくのを感じた。 
何かに上から凄い力で押さえ込まれている。 
闇のせいで何が俺を押さえつけているのかわからない。

無我夢中で、俺は枕元にあった電話まで這って行った。 
スピーカーフォンとリダイアルのボタンをアゴで押し、 
恐らく内線だったと思う、建物の知人か友人に電話した。 

ルルルルル…という音のあとにガチャという 
受話器を上げたときの音が聞こえた。 
「もしもし!? もしもし!?」 
俺は電話に向かって怒鳴ったが、相手からの応答がない。 

ひたすら無言。 

いつの間にか身体の自由が利くようになっていることに気づいた俺は、 
恐怖から逃れたい一心で部屋の照明を点けることにした。 
手探りで壁にあるスイッチをONにした。背後が明るくなるのを感じた。 
少し安堵しつつ、振り返り壁を背にして、部屋の様子を見てみた。 

瞬間、部屋が真っ暗になった。

あわてた俺は、再度スイッチをONにした。部屋が明るくなる。 
だが、部屋の様子を見ようと振り返ると照明が消えて闇に包まれる。 
それを何回か繰り返しているうち、嫌なことに思い至った。 

照明自体が点灯しなくなったのではない。 
照明のスイッチがOFFに戻っているのだ。 

頭のどこかで「やってはダメだ」と言っている自分がいたが 
俺は、照明のスイッチをONにした指をそのままスイッチの上に 
置いたままにすることにした。 

照明のスイッチをONにする。指に力を入れる。 
そのまま部屋の方を見てみる。照明が消え部屋が暗くなった。 
同時に指先に何かが触れるのを感じた。 

そこから先は何も覚えていない。気絶したのだと思う。