DSCF3200_TP_V

兄さんは声かけてもんーとかうんしか言わないから、仕方なく俺も黙ってた。 
なんとなく不安になりながらもぞもぞしてたとこに祖父母が戻ってきた。 
お盆にコップふたつ乗せて。 
クッソ暑くて喉乾いてたし茶かなって喜んだんだけど、よく見ると色がすごかった。緑色なんだけど、
青汁っていう感じじゃない。
なんていうのか、すごく濃くて、原色のままの緑だった。これ飲むのかって考えると顔ひきつった。 
祖父「来て早々悪いけどな、よろしく頼むぞ。本当に兄はこの量でいいんだな」 
兄さん「はい」 
祖父「すまんなぁ…」 
祖母「ごめんね、ごめんね、俺くん、兄くん、ごめんね」 
俺「え?なっなに??なんだ??」 
兄さん「俺、大丈夫、大丈夫だからな。本当にお前のはちょっとだから。大丈夫だよ、大丈夫だよ、大丈夫」 
俺「えっえっえっ???」 


一気に話についていけなくなった俺だけど、とりあえず俺たちはこの変な緑の飲み物のために祖父母の家に来させられたんだってことはわかった。
コップがふたつ俺らの前に置かれた。 
兄さんのは並々と注がれてる。俺はコップ半分より少ないくらい。意味がわからなくて固まってたら、兄さんがぐいっと緑色のを煽った。ビールでもこんなごっくごく飲んでるの見たことないってくらいごっくごく飲んでた。 
祖母は泣いてたけど、祖父の顔は見てない。 
そんで、兄さんがぶっ倒れた。意味不明だった。

俺「…………。はぁあ!!!?兄さん!!!!!!」 
祖父「すまんなぁ。すまんなぁ。しきたりってものだよ」 
俺「あああ!!!!?兄さんなんでそんな!!!!兄さん何してくぁwせdrftgyふじこlp」 
祖父「うん…うん…すまん…ごめん……」 


一瞬呆然としたけど、兄さんが倒れたままビクビクってなって、本当に苦しそうで、俺ひたすらテンパって大声出した。出したもんだから大口空いてたらしくて、
そしたらそこにその緑のを飲まされた。てか注がれた。 

思わず変な声出たよ。けど俺はそれを飲み下しちまった。 

味なんてよくわからなかったが、見た目に反して酸っぱかった?気がする。んで、よく覚えてるのが、それを飲んだ時に感じた、体の中を一気に緑のが広がってく感触。 
あと、なんかわからんが息するのがすごく苦しくなった。
とにかく気持ち悪くて辛くてたまらなくって、俺でこれなら兄さんは、って、
そこで倒れてる兄さんを見た。 
逃げないとって思った。 
祖母に続いて祖父も泣き出してて、もう訳がわからなかったけど、兄さんを抱き起こした。 


俺「兄さ、逃げ、兄さ」 


ってな感じで声もなんだかうまく出なくて焦ったけど、立てるってことはわかって、
必死に兄さんをおぶって和室を出た。 
兄さん痩せてたけど、俺よりけっこう身長あった。火事場の馬鹿力ってやつで(きっと)、
その時は簡単におぶれた。 

クソ長い廊下に出たはいいんだけど、正直俺もフラフラで、遠くになんか行けそうになかった。 
幸いなことに玄関が近くて、ゼェゼェ言いながら玄関まで向かってると電話があるのが見えて泣いた。 
祖父母は揃って泣き崩れてるみたいだったし、まず兄さんを下ろして家に電話かけた。
わりとすぐに母さんが出た。

俺「な、俺、俺、兄さんが」 
母さん「俺?今お祖父ちゃんお祖母ちゃんちなの!?」 
俺「ん゛、だ、すけっ、俺、兄さん、死ぬ」 
母さん「ねえそうなの!?」 
俺「ん゛ん」 
母さん「アレはもらったの!?もらったわね!?」 
俺「(咳き込んで喋れなくなる)」 
母さん「ねえ!もらったわね!?ねえ!もらったわね!?もらったわね!?」 
俺「グッゴホォッ」 
母さん「ねえ!!もらったのね!!よかったねえ!よかった!よかったね!よかったああああああああああー!!!!!!!!!!」 


あまりにも怖くて電話をたたっ切った。 
電話の向こうで高笑いする声がした。男の声も笑ってたし父さんも一緒になって笑ってたんだと思う。 

絶望的な気分になって、とにかく泣いた。 
ひっぐひっぐ言ってみっともなかったけどとにかく兄さんは離さなかった。 
力なくだけど誰かの手が俺の頭をぐしゃぐしゃかき混ぜてたから、兄さんも意識はあったみたいだ。 

そこから俺は逃げることなんて考えられなくなって、俺よりも兄さんのが絶対死にそうなのに、とか兄さん死んだらどうしよう、とか考えてびーびー泣いてた。 
泣いてるうちに、多分失神したか気絶したかしたんだと思う。 
死ぬなんてやだなって頭に浮かんだのは覚えてるけど、
それ以外意識なくなったときの記憶がまったくない。