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俺んちは砂浜じゃなく磯浜の海岸沿いにあるんだが、 
小学生の時分、エアコンもなくて寝苦しい夜はよく浜に行って涼んだもんだ 
家の人に知れれば怒られるんだけど、パンツ一丁で海にも入った 
沖に泳いでいくなんてことはなかったから 
溺れるような危険はないんだけどウニなんかを踏まないよう足元には注意した 

近くの草原が町営のキャンプ場になってて大学の宿舎もあり 
夏場は遅くまで花火をする人もいて怖いと思ったことはなかったな 
それに当時は海の家もやってたし、お客様がやることだからって感じ 
俺も高校まで夏休みはかき氷作りとか手伝うこともあった 

それはともかく、小学校6年の時だったはず 
夜9時頃に浜に一人で出てたんだな 
まだ6月頃だから泳ぎにいったわけじゃない 
その年は夜光虫がひどくて、昼は赤潮状できたならしいんだが夜はきれい 
それが光るのを見に行ってた 
うちのほうは沿岸で漁をするわけでもないんだが夜光虫は好かれてなかったな 
今みたいに観光の材料になるなんて思いもよらなかった 

その日はけっこう波が強くて 
打ち寄せるのに合わせてリズミカルに夜光虫が光る 
それを岩の上から見下ろしてたんだが 
一ヶ所だけ不思議な光り方をする 
波がぶつかって立ちあがるときに、頭と両手のある人の形に見えるんだな 
ずっと見てたけど、人の形ができて、くずれて、またできるをくり返している 
それが岩を這い上がろうとしてるように見えるんだな 
不思議なんで降りて見に行こうかと思ったがちょっ危なくてできなかった 

20分くらいは見てたんだが降りていかなくてよかった 
次の朝ちょうどその場所から遺体が上がったんだよ 
ただそれは婆さんで、けっこう遠くから流れ着いたものだった 
まあそれだけの話だけど、今でも不思議 
婆さんの死体は深いところに沈んでたってことだったしね