20140323-P3230720_TP_V

太郎たちの両親もそこにいたけど、泣きながら俺を見ていたが黙ってた。そこで俺は自分の体が動かないことに気づいた。縛られてたわけじゃないのに、何故か動かない。 
声も出せない、ただ目が開けられるだけの状態。なんだこれ?と、またパニックになってたら、太郎の婆ちゃんがやっと話しかけてきた。 
「梅ぼん、婆ちゃんの右の目、見てみい」 

太郎の婆ちゃんの右の目は昔事故でなくしたので、義眼がはまってる。それは知ってたし、今さら見て何になるんだろう、と思ったが言われるままに見た。 

「どしてん、別にいつもとおんなじや、焦点は変やけど、婆ちゃんの目や」 

先程まで出なかった声が出た。 
とたんに大人たちはワアッと歓声を上げて、良かった良かった、梅は助かった、と抱き合って泣きだした。

両親は俺を抱きしめて泣いたし、太郎たちの両親まで泣きながら「良かったなあ梅ちゃん、良かったなあ」と喜んでた。 
でも、それが気持ち悪かった。自分の子どもは気が狂ったかもしれないのに、なんで恨み言も言わずに喜んでんだか、そう思った。 

96 : 本当にあった怖い名無し[] 投稿日:2012/08/21(火) 13:32:56.99 ID:LCziOvhr0 [1/5回(PC)]
「他の三人は?太郎やらはどしてん」 

俺は聞いた。けど大人たちは、 
「なにゆうてんねん、朝からずっと家におるがな。梅ちゃん、これに懲りたら二度と『ひとりで』山いったらあかんよ」 
と言った。 
なんだ、そう言うことになったんか。 

俺は『ひとりで山に入った』ことになったんか。太郎らは婆ちゃん家の蔵かどっかに閉じ込められたんやなあ。気が触れてたもんな。 
そう理解したから、何も言わなかった。 

それから二、三日して、俺は両親と地元に帰ることになった。あれ以来、太郎たちには会わなかった。 

村のひとたちが見送ってくれたなかにも、太郎たちはいなかった。 
俺が二十代半ばになった今も、婆ちゃんは健在で、季節ごとに俺は村に行くが、村人たちは相変わらず優しいし、 
太郎たちの両親も変わらない態度だが、太郎たちは相変わらずいない。太郎たちのことをまわりに尋ねると、花子は嫁いで東北、太郎と二郎は二人で同じ会社に入り、揃って海外にいるとのこと。 

学生のときは三人とも東京の学校にいったと言っていた。本当かどうかは、あれから会ってないからしらない。 
白目やネチャネチャの正体も、マガガミ様が何かも、太郎たちの行方も、太郎が言っていた「キチヅの婆ちゃん」なんてひとは村にはいないので、誰のことなのか、もわからないが、 
あれから何年も過ぎた今に至るまで俺には何も害はないし、変化もない。 

白目やネチャネチャも、あれ以来見てない。両親や村人に詳しいことを尋ねてみたこともあったが 
「夢でも見たんだろう。お前は山にひとりで入って、熱射病になって山から降りてきた」「池?そんなもの知らないよ、初耳だ」 
と言われた。あのとき散々池について噂しあった子どもたちに同じことを尋ねても、「池なんて知らない」と平然と言われる。