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 目当ての本はすぐに見つかったけど、貸し出しで家に持って帰る事にしたらまたすぐにあの灼熱地獄に逆戻り……。 
汗の止まらない僕は、どうしてもその気になれなくてね。 
とくに用事もなかったし、その場で本の続きを読んでいってしまう事にしたんだ。 
最初は他人がノートにカリカリとシャープペンを走らせる音や、ペラペラと本を捲る音も耳に入っていたんだけど、すぐに本に夢中になっていった。 
君達は知っているかな?全国の学校や駅、観光スポットのトイレの詳細条件が写真つきで紹介されているシリーズものでさ。 

中には億単位の金がかけられて建設されたトイレもあるんだよ。 
人間は、トイレとは切っても切れない縁があるのさ。 
それだけは昔からずっと変わらない。 
読んだ事がないなら、僕の学校の図書室に行ってみる事をオススメするよ。 

……少し話がそれたけど、とにかく僕は真剣に読書をしていた。 
汗はクーラーの冷たい風に冷やされて、下手に濡れているだけに体の体温が一気に下がってね。 
僕は、トイレに行きたくなってしまったんだ。 
一人で来ていただけだし、誰に遠慮をする必要もない。 
すぐに立ち上がって、トイレに行く事にしたよ。 
いつの間にか図書室に数人見えていた人影はいなくなって、僕一人だけになっていた。 
勿論まだまだ明るい時刻だし、廊下の窓からは爽やかな風が吹き込んでいた。 
野球部が活動する物音もまだ聞こえていたよ。 
さっきと違って苛々する事もなく、始まったばかりの夏休みを実感して心が弾んだな。 
僕は何も考えず、トイレの扉を開けたよ。 
図書室だけではなく、校内の人間自体が少なかったみたいでね。トイレは静まりかえっていた。

……君達にもわかると思うけど、トイレって独特の空気に包まれているよね。 
扉を開けた瞬間、ムッ、と異臭が鼻をついて生暖かさが肌を包む。 
僕の学校のトイレは換気扇で臭いを外に逃がしているから、クーラーはないんだ。 
タイルは所々黒ずんでいて、空気がどんよりジメジメしている。 
さっきまでの爽やかさが嘘のように、僕は暗い気持ちになったよ。 
それでも生理的な欲求には逆らえない。 
僕は目を伏せるようにして俯きながら、一番奥の個室に入った。 
壁に囲まれた狭い空間に入ると、更にまた違った独特さが襲う。 
叫びだしたくなるような落ち着くような、複雑な気分さ。 
家のトイレは狭いほど落ち着くんだけど、学校のトイレは狭さが気味の悪さも兼ね備えているからね。 
自分の立てる物音だけが響いて、鼓動がやけにうるさい。 
普段の騒がしいトイレとは全く違う。 
ほんの少しの我慢だっていうのに、一瞬が永遠のように感じられたよ。 
そんな時、僕にとっての救世主が現れた。 
ギィ、と物音がして、誰かの足音が近づいてきたんだ。 
いくら人気がないとは言っても、校内に誰もいなかった訳じゃない。 
誰かがトイレに入ってきたのさ。