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 そこは大きな図書館のようなところ。 
二メートル近い書架がいくつもあり、無数の本がとても綺麗に並んでいた。 
そこを歩いていると、背表紙が五センチほど飛び出した本を見つける。 
その飛び出しが気になって、本の背表紙にそっと触れ、棚に押しこむ。 
途中で僅かな抵抗感を感じ、それでも押すと、「プチッ」という音と共に抵抗感が解消される……。 
それは、なんとも言えない、気持ちがいい感触だそう。 

他にも飛び出した本がないかと辺りを探す。見れば、それはいくらでもあった。 
楽しくなって、飛び出した本を押し込む作業に没頭する。 
「プチッ」「プチッ」「プチッ」「プチッ」「プチッ」 
一通り押し込んだ後、不思議な満足感に浸っている……。 

クラスメイトのA子は、そんな夢の話をしていました。 
その次の日も、また次の日も、同じ夢の話をしていました。 
次第に、A子は段々おかしくなっていきました。 
目は虚ろになり、言動も理解不能で、訳が分からないことを言い出すようになりました。 
ある日、学校に行くと、A子が教室で暴れていました。 
「本がない! 本がない!」と言って、クラスメイトの教科書や辞書を奪っては「違う! 違う!」と言っていました。 
私はとっさに「図書室に行けばあるかもしれないよ!」と叫びました。夢の話を思い出したからです。 
するとA子は私に近づき、持っていた辞書で私の頭を殴りました。 
「潰れろ!」 
そう言って何度も殴ってきました。 
「気持ちよくない! 気持ちよくない!」 
A子の顔は怒りに満ちていました。でも目は涙で溢れていました。 

私は気がつくと保健室にいました。気を失って運ばれたそうです。 
クラスメイトの話では、あの後A子はみんなに取り押さえられました。 
その後、騒ぎを聞きつけやってきた先生が警察を呼んで、一応は落ち着いたそうです。 
A子は精神病院に入院したと聞きましたが、詳しい話はだれも知りませんでした。 
隔離病棟に入ったとか、廃人同然になったとか……そんな噂ばかりでした。 
A子があんな風になったのは、あの夢がなにか関係していると思うのですが……。 
夢がA子を壊したのか、それとも何かで壊れたからこそ、あんな夢を見たのか。 
いくら考えても、私にはわかりませんでした。