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 彼女は通勤で電車を使うらしい。 
その日もいつものように満員電車だったそうだ。 
直美さんは「いつものこと」と我慢して乗っていたという。 

ふと気づくと、隣にいた女子校生がなんだか苦しそう。 
顔を赤らめ、息を乱し、かぼそい声で「たすけて……」と言っていた。 
直美さんが「まさか」と思いよく見ると、その子の腰のあたりで男の手が動いていた。 
「ゆるせない」 
直美さんはその手を掴み、勢いよく持ち上げて「この人痴漢です!」と叫んだ。 
その瞬間、乗客の視線は男の手に集中した。車内がシンと静まり返った。 

男の手には血みどろの包丁が握られていた。 

女子校生はその場に倒れこみ、ビクビクと痙攣していたらしい。 
電車は駅で停車し、男はホームへ逃げていったそうだ。 

直美さんは「あの事件は忘れられない」と声を震わせていた。