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先生がまだ大学生の頃、学校近くのボロアパートの2階に一人暮らしをしていた。 
ある夏の日、先生の部屋へ友人が遊びに来ることになった。 

部屋中の窓を全開にした四畳半の窓際にもたれ掛かり、団扇と小さな扇風機で昼間の酷暑に耐えながら一人で友人を待っていた。 
暫くして「カンカンカン」と外階段を上がってくる足音が薄い壁を通して聞こえてくる。 
その足音は階段を登りきると廊下を渡り、まっすぐ歩いて一番奥にある先生の部屋の扉の前で止まった。 
扉は真横にある共同便所が臭かったので暑くても閉めたまま。 
先生は友人が来たのだろうと、窓際にもたれ掛かったまま反対側の玄関に向かって「開いてるよ」と声を掛けた。 
しかし、いつまで待っても一向に扉が開く気配が無い。 
不審に思って部屋を突っ切りこちらから扉を開けるとそこには誰も居ない。 
トイレかと考え真横の共同便所を覗いてもやはり居ない。 
他の部屋に入るような物音もしなかった筈だが、とにかくどうしようも無いので部屋へ戻った。

夕方、約束通り友人が遊びにやって来た。 
部屋の中央に置いた卓を挟んで扉側に友人が、反対側の窓際に先生が座り、 
友人が持参したビールと乾き物を肴に学校の事やバイト先の話題などで盛り上がった。 
ふと昼間の不思議な出来事を思い出し、友人に語って聞かせた。 

すると友人が驚いた顔をしてこっちを見る。 
いや、良く見ると自分ではなく、自分の後ろの方を見ているようだ。 
何の気なく肩越しに振り返ると、先生の目の前、窓のすぐ外に見知らぬ男が立ってこちらをジッと見ている。 
丸眼鏡を掛けた背広姿の中年で、先生は(え?誰だこの人は?)と思った途端、その場で唐突に消えた。 
移動したのではなく、文字通り掻き消すように姿が消え、二人その場で固まったまま、ここは2階で外には人が立てるような余地など無いことを思い出した。 
余談だが先生が見た幽霊の印象は普通に生きた人にしか見えなかったらしい。 

そんな事があって数日後。 
小用で親戚の家に訪れ、仏間に入って驚いた。 
仏間に飾ってある先祖の遺影の一つが先日の男そっくりだったからである。 

親戚に尋ねたところ、その男性は先生が生まれるずっと前、太平洋戦争で亡くなった方だという事だった。 
未だに解せないのはどうして今頃になって先生の前に姿を表したかということ。 

ちなみに先生の担当は物理ですが、他にも霊体験をした事があるそうで、先生曰く「見てしまったモノはしょうがない」とのこと。