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 夏休みも間近に迫ったある土曜日,俺はサッカークラブの練習で, 
午後6時まで校庭にいた。失くしたボールを探しに校舎裏に行くと, 
猫の鳴き声がした。声は焼却炉の方から聞こえ, 
突然の「ギャーッ」という大きな声を境に聞こえなくなった。 
陰から覗くと,焼却炉の前に,先生が静かに佇んでいた。 
彼女は,あの夢の中の人形の目で,不気味に笑いながら 
本当にぞっとするような顔つきで,焼却炉の中を覗き込んでいた。 
 
そのときの俺は,怖くなってしまい,すぐにその場を離れたが, 
あの生暖かい風が吹いた夕暮れの猫の鳴き声と, 
あの時,あの場にいた先生の顔つきは 
卒業後,7年たった今でもよく覚えている。 

あの日,先生が猫をどうしたのかは,その瞬間を見ていないので断言できない。 
風のうわさで聞いたが,彼女は今では隣の学校で教師をやっているらしい。 
その学校でも相変わらず,同僚の先生,生徒,保護者達から大人気だそうだ。 
彼女自身も順調な教師生活を過ごしているらしい。 
ただ,聞くところによると,彼女は数年前に一度結婚していたそうだ。 
そして,結婚した相手の男が,新婚生活たった数日後にもかかわらず, 
連絡も取らずに,逃げ出すように彼女のもとを去ったという事件があったらしい。 

つい先日,地元の区役所の近くで,あの頃と全く変わらない 
相変わらずの雰囲気を持っていた先生とばったり会った。 
屈託のない笑顔で手を振りながら,「久しぶりね」と声をかけられた。 
空気はちょうどあの夏の日と同じ,生暖かい夕暮れだった。