NAT88_ajisaitohokora_TP_V
外に出ると山間の田園地帯特有のひんやりとした空気が心地よい 
やはり来て良かった・・・と、カメラであちらこちらの風景を撮る・・・ 
山の木々から差し込む木漏れ日が地面の苔や岩をくっきりと浮かび上がらせる・・・自然の織り成す美のコントラスト・・・ 
時間が経つのも忘れシャッターを押し続けた 

時計を見ると正午をまわっている 
昼飯にしようかと、宿の婆さんが作ってくれた稲荷寿司を頬張る・・・うまい・・・故郷の婆ちゃんを思い出す・・・ 
その後も街には行かず、のんびりと山々と田園風景を散策し、カメラで撮り続けた・・・ 
会社から携帯にメールが何通か届いていたが無視しておいた・・・折角のリフレッシュを邪魔されたくはない 

野原に寝そべって山の風を感じていると何かが顔に当たった 

ん? 雨・・・か? 
それは通り雨のようだった・・・ものすごい快晴なのだがパラパラと雨が降ってきた 
最初は心地よかったが一応、木陰に入ってやり過ごそうと移動した 
ふと、降り注ぐ雨の向こうに何かが動いているのが見えた・・・ 

何だろう・・・? 
何かの行列のようだ・・・自分が歩いてきた道を森の丘のほうへと進んでいるようだ 
目を細めて見てみるが、ハッキリとは見えない・・・雨による土煙と蜃気楼によってゆらめいて見える・・・ 
次第に雨脚は強くなり、そのうちそれは見えなくなってしまった 
どれくらい時間がたったのだろう 
木陰でウトウトと眠ってしまったらしい 
見ると雨もすでに止み、夕日が辺りを照らしている・・・ 
自分はしまった・・・と思い、急いで宿の方向へと歩を進めた

雨で濡れた砂利道を早歩きで進む・・・周囲を取り囲む田からは早、すず虫の鳴き声が聞こえ始めていた 
折角の観光中に居眠りをしてしまうなんて・・・時間を無駄にしたやるせなさと、気が付けば早く葉子さんに会いたい、 
と思っている自分がそこにいた・・・雨に濡れた木々は陽光により眩しいくらいにキラキラと輝いていた・・・ 

あれ?という違和感とともに自分は歩くのを止めた 

ちょうどここは昨夜、老婆から宿の場所を教えてもらった場所である 
こんな所に・・・あったかな・・・? 
よく見るとそこには道をまたぐようにして大きな鳥居が立っていた・・・ 
おかしいな?昨夜は暗かったから見えなかったのかな?しばらくそこで考えていたが、日も暮れかかっていたので 
あまり考えず、さっさと宿に戻った 

玄関を開けると、今日は葉子さんが出迎えてくれた・・・ 
密かにガッツポーズを取ると、葉子さんはそのまま部屋まで付いて来て、お茶を入れてくれた 
隣に座り、丁寧な手つきで用意をしてくれる・・・時折、自分を見つめてくれる黒い瞳は、まるで万華鏡のように煌く 
輝きを持ち、雨の後に葉を伝う水滴のように潤んでいた・・・彼女愛しく思えてしまう・・・ 

ふと会話が途切れ、見つめ合うと・・・彼女の白い顔が紅色に染まっている・・・ 
彼女の全身から溢れるオーラと自分に向ける熱い視線から、彼女も自分と同じ気持ちなのだとわかる・・・ 
これが恋に落ちるということなのだろうか・・・自分の頭の中には仕事や別れた彼女のことなど、とうに消えていた・・・ 

その日、宿には婆さんや他の客はおらず、自分と葉子さんしかいないと言う・・・ 
二人で並んで座り夕飯を済ませる・・・
旅先でこんなことになるなんて・・・しかし、いささかの疑念もそこには無かった・・・  

途中、これは夢なのでは・・・と思う・・・愛しい、その想いしかなかった・・・

シャン 

何かの音で目が覚めた・・・ 

ひどい目眩がする・・・おかしい・・・酒を飲みすぎたかな・・・? 
天井が揺れている・・・ひどい目眩だ・・・頭がゆらゆらする・・・ 

しばらくボーッとしていると、揺れているのは自分ではなく周りだということに気がついた・・・ 

ここは・・・どこだ・・・? 

それはひどく狭い空間に入れられているようだった・・・自分の足が折りたたまれ、入っている・・・窮屈だ・・・ 
そして一定間隔の時間で上下に揺れている・・・時折、横から淡い光が差し込むことに気がついた俺は、混沌とした 
感覚の中で視線をそちらに送った・・・ 

一瞬、黒い格好をした人影が見えた・・・手には提灯を持っているようだ・・・ 
見えるのは一瞬だった・・・そしてまた少ししてから見える・・・腰に白い布を垂らしている・・・ 
何だろう・・・俺はどこにいるんだ・・・? 外に誰がいるんだろう・・・? あれ・・そういえば葉子さんは・・・? 

シャン 

どれほどの時間が経ったのかわからない 

これが夢なのか現実なのかさえ不明だ・・・理解する手段すらない感じがした・・・このまま永遠にこの状態が続くのか 
とさえ思えた・・・そして再び意識が朦朧としてきたのが分かり、そのまま眠りに落ちた・・・