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ただし、浮かれまくっていたその時の俺にも一つだけ気になることがあった。 
電車が走り僅かに揺れるたびに 

「カチ…カチ…」 

とプラスチックのような硬く軽い感じのものがぶつかり合うような、なんか 
変な音がする。 
俺は何の音だろうとあたりをキョロキョロしたのだが、音の正体がわからない。 
アケミちゃんがその様子を見て「どうしたの?」と聞いてきたが、音の出所も 
解らないし、別段気にする事もないと思った俺は「いや、とくに」と流した。 
音の正体については後でわかる事になるが… 
電車が目的地の前の駅に差し掛かった頃、アケミちゃんのバッグの中の 
携帯が鳴った。 
バッグを空け、携帯を中から取り出そうとしたとき、俺はバッグの中にとんでもないもの 
が入っているのを見つけて一瞬思考が停止してしまった。 

        ボロボロにさび付いた異様にでかい中華包丁2本 

明らかに10代の女の子が持つには相応しくない代物だ。 
というかこんなものを日常的に持ち歩くやつがいるとは思えない、明らかに異様な 
光景だ。 
アケミちゃんは直ぐにバッグを閉じてしまったが、俺の見間違いという事はない。 
その間も「カチ…カチ…」と例の変な音はし続けていた。 

そこで俺はやっとふと我に返り状況を分析してみた。 
「そもそもこんな可愛い子が、目があったってだけで唐突に声をかけてくるって 
状況がおかしくね?そんな上手い話あるわけがねーよ、この子ヤバイ子なんじゃ 
ねーのか?」という疑念が出てきた。 
疑念というより確信に近かったが… 

そして、このまま目的地の駅で降りるのはまずいと感じた俺は、ひとまず 
次の駅で降りることにした。 
ただし、下りようとすると着いてくる可能性もある、そうなると申し開きが出来ないし 
余計にピンチになるのが解りきっているから、電車が駅に停車し、発車直前、 
ドアが閉まる寸前で降りる事にした。 

そうこうしているうちに電車が駅に着いた。 
アケミちゃんはまだ電話をしているが、チラチラとこちらを見たりもしているので 
うかつに動けない、目が合うたびに背筋に寒いものを感じながらも、愛想笑い 
を浮かべながらタイミングを伺うと、発車の合図の音楽と同時に「ごめん、ここ 
で下りるから」と一方的に言って電車を駆け下りた。 

案の定、アケミちゃんは反応できず、電車はそのまま発車し行ってしまった。 
ひとまず難を逃れる事ができた俺は、とんでもないものに出会ってしまった 
と思いながらも、さてこれからどうしようかと考えた。 

Aのアパートまではまだ結構距離がある、というかまだこちらに来て2ヶ月も 
経っていない俺に、ここから目的地までの道順など解るわけもない。 
かといって次の電車に乗った場合、次の駅でアケミちゃんが待っていたら 
余計にヤバイ。 
仕方がなく、俺はAに電話をして後で事情を話すからと住所を聞き、駅を出て 
タクシーでAのところまで向かう事にした。アケミちゃんにもう一度出会うリスク 
を考えたら、千数百円の出費のほうがずっと良い。 

Aの家に着き、かなりほっとした俺は「おいやべーよ、なんかすげーのに合っち 
まったよ、都会こええよ!」と大げさに、かなり興奮気味に3人に事の事情を 
話した。 
AもBもCも、当然全く信じてくれず、「嘘くせーw」とゲラゲラ笑っていると、 
ピンポーンとドアチャイムが鳴った。 

時間はもう夜の11時近く、こんな時間に来客など当然あるわけもない。 
俺は「いや、まさかな…完全に振り切っていたし」と思っていると、Bが 
冗談半分に「アケミちゃんじゃね?」と言い出した。 

そこで自分で言ったBも含め、俺たちはそこ言葉を聴いて凍りついた。 
というよりも、その言葉を聴いた俺が真っ青な顔で動揺しているのを見て 
色々察したといった方が良いだろう。 
Aが「おい、さっきの話マジなのかよ…」と言いつつ、ひとまずドアスコープで 
誰が来たのか確認してくると言って、足音を立てずに玄関へと向かい、 
暫らくすると戻ってきた。