わけが分からず、挟まれたまま、何も出来ない状態でした。どんどん胸に食い込んできます。
「誰か助けて!」
そう大声を出そうとしました。そのときです、恐ろしいものを見てしまったのは。
もがく僕の足元を、女の顔が、スゥーと部屋に入っていったんです。それは女の頭部だけで首から下は埋まっているように見えました。
顔は無表情なのですが、右目と左目を交互に、上下に動かしていました。そして、長い黒髪をズルズルと引きずっていました。
それを見た瞬間、ドアの力が緩まり、僕は開放されました。
バランスを崩します。踏ん張って立て直したとき、またドアが閉まりました。
「うわぁ!」
僕はとっさに内側にかわしました。閉まった時、「バァン!」という大きな音が響きました。指を挟まれたら千切れていたと思います。
いっきに冷や汗が吹き出てきました。息も荒くなってます。挟まれた胸はズキズキと痛んでいます。
そして、さっき見た女の顔を思い出し、背中に悪寒が走りました。
「あの顔、僕の部屋に入って行ったよな……」
Bの話が頭をよぎりました。霊に悩まされている――。もしかして、今のも霊? 霊が僕の部屋に来たのか?
でもBはどこに? もうすぐ着くと電話があったのに。いったい、今、どうなってるんだ?
疑問が頭の中を駆け巡りました。
しかし、ゆっくり考えている暇はありませんでした。
僕の部屋は1Kです。玄関から部屋までの通路にキッチンとユニットバスへのドアがあります。
通路の先はそのまま部屋につながっています。
その部屋の照明が「フッ」と消えました。唐突にです。他に照明は点いてなかったので、全部が真っ暗になってしまいました。
あたりはシーンと静まりかえっています。
脚がガクガク震えてきました。腰に力が入りません。喉が干上がっていくのが分かりました。
626 : 本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:2012/07/05(木) 00:12:40.94 ID:/fwAWn+v0 [4/7回(PC)]
「逃げなければ!」
自分に言い聞かせ、勇気を振り絞りました。部屋に背を向け、ドアノブを握り、グッと力を込めました。
しかし、ドアノブが回りません。
もちろん、オートロックなどではありません。さっきまで開いていたのに。
焦りました。急に頭が真っ白になりました。手も震えだし、ドアノブを上手く掴めません。
冷たい汗が首筋を通ります。うなじの毛が逆立つのを感じました。
それでも両手でしっかり掴むと、ガチャガチャと左右に回します。押したり引いたりしてもドアは少しも動きませんでした。
「助けて! 誰か! 助けて!」
今度は大声で叫びました。ドアを拳で叩きながら、何度も、何度も、叫びました。
すると、ドアの向こうで声がしました。
「おい! 大丈夫か!」
Bです。Bの声でした。
「B!? Bか! ドアが開かない! 助けてくれ! 部屋に何か居るんだ!」
Bに助けを求めました。
「なんだって!? 待ってろ! 今開けてやる!」
ドアノブが勝手にガチャガチャと動きだしました。ドアもガタガタと揺れています。Bが外から開けようとしていました。
「おい! びくともしないぞ! 鍵は!? ちゃんと開いてるのか!?」
僕は暗闇の中、手探りで確かめました。チェーンロックはかかっていません。
「鍵はさっきまで開いてた! 閉まってるはずないんだ! 真っ暗で何も見えない! 助けてくれ!」
「落ち着け! いいか! 玄関の電気が点かないか試してみろ! すぐ近くだろ!」
そう言われ、手探りでスイッチを探しました。壁を指でさぐると、よく知った出っ張りにふれました。
「パチ……パチ……」
ダメでした。玄関の電気は点きません。
627 : 本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:2012/07/05(木) 00:13:41.04 ID:/fwAWn+v0 [5/7回(PC)]
あたりは相変わらず真っ暗です。
そのとき、何かヒンヤリとした風を感じました。かすかな、かすかな風です。その風は僕の顔に当たっています。
「フー、ヒー……フー、ヒー……」
一定のリズムで音が聞こえ、それと同時に、風を顔に感じます。
ヒタッと何かが頬に張り付きました。ゾッとするほど冷たいそれは、すぐに『手』だとわかりました。
その手が下にモゾモゾと動き、突然、首を掴みました。そして別の手が腕を、さらには足を掴まれました。
どれも氷のように冷たい手です。無数の手が僕を掴んでいました。
「フー、ヒー……フー、ヒー……」
一定のリズムの音が、あちこちから聞こえてきます。前後から、左右から、そして、上下からも。
部屋の方から、小さくて聞き取りにくい、女の声が聞こえてきました。
「……ヲ……ルノヨ」
かすかな声が聞こえました。
「テ……ビ……ヲ……キ……ルノヨ」
声がさっきより近くで聞こえました。
「テク……ビ………ヲキ……ル……ノヨ」
今度はすぐ近くで聞こえました。
「アナタモ……テクビヲ……キルノヨ」
最後に耳元で聞こえました。
そして、何かが僕の手首にふれました。ヒヤっとした感触です。金属のようでした。
その感触が、スッと横に動きました。
手首がジワッと熱くなります。ドクン、ドクンと鼓動を感じます。
そこで僕は気を失ってしまったんです。
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