ハッキリと、見えた。
ぼろきれのようになった、昔の狩衣のようなものを身にまとい。
顔には、面。
だけど、木の面には何も彫られていず。
目の部分にも穴すらあいていない。
面は、縄のようなものでぐるぐる巻きに縛りつけられている。
人間なら、前なんか見えっこない。
なのにそれはすーっと体をまわし、悪夢のように正確にKさんの方に歩みだした。
ほとり、ほとり、左足と右足をゆっくりと交互に踏み出して、
そのたびに体を不規則に揺らしながら。
“いやだいやだいやだいやだいやだアァァ!”
Kさんがやっとクルマに潜り込んだときには、
“それ”がもし走ったなら、一瞬で追いつかれてしまうほどの
近さだったそうです。
ずっとエンジンかけっぱなしだったクルマをすぐにバックさせて、
(このときも林に突っ込みそうになったり、大変だったらしい)
事故るんじゃないかってスピードで逃げ帰ったそうです。
いやだいやだいやだ・・・と、心の中でさけびつつ。
239 : 本当にあった怖い名無し[] 投稿日:2012/03/29(木) 17:02:18.38 ID:+k9VQJgE0 [5/5回(PC)]
マスターも僕もさすがに笑いとばしたりはしなかったし、
(そりゃ幽霊じゃなくて“おばけ”ですね、や、妖怪だ、
のっぺらぼうだ、クスクス、ぐらいは言いましたが)
逆にKさんも、未だに怯えてたってわけでもありません。
ただし、それ以来、Kさんは東京でも残業で遅くなった会社など、
ちょっとした暗がりや人気のないところでもビクッとするようになったらしい。
「アパートの部屋も、出かけるときに電気をつけていくんだよ。
じゃないと、帰ってドアを開けたときに、そこにいそうでさ」
その後、少なくとも僕が知る限りでは、
Kさんは再びそれを見ることはありませんでした。
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