125 : 1[sage] 投稿日:2011/08/10(水) 18:39:20.33 ID:P9wCKHqV0 [1/5回(PC)]
学生時代の話をひとつ 
ちょうど今くらいの時期だったかな? 
サークルで離島に合宿に出かけた肝試しの時の事。 

俺たちはその舞台に標高100mもない小さな山を選んだ。 
この島、戦時中の傷跡があちこちに刻まれていて 
防空壕はそこかしこにあるわ、山の中にはヘルメットみたいな 
ものまで落ちてるわで雰囲気バッチリ。 

頂上付近のひと際デカイ防空壕の前から出発、 
山道を下って戻るというルート。 
防空壕から流れてくる冷たい空気が 
いやでも雰囲気を盛り上げる。

 
126 : 2[sage] 投稿日:2011/08/10(水) 18:43:36.91 ID:P9wCKHqV0 [2/5回(PC)]
俺を含む下っ端の学生が肝試しのルートの各所に 
一人ずつ、おどかし役として茂みの中に身を潜めた。 
向こうから見える懐中電灯をたよりに木をゆすったり 
奇声をあげたりして、おどかす事2時間。 
最後の組が通過したのを確認した俺は 
打ち合わせ通り肝試しの出発点に戻った。 

…何の手違いか防空壕の前には誰もいなかった。 
明かりひとつ持たない俺は真っ暗な山の中にひとり 
置き去りにされてしまった。 
あまりの暗さに帰り道も分からない。 
どうしたものかと途方に暮れていたその時、



127 : 3[sage] 投稿日:2011/08/10(水) 18:46:10.99 ID:P9wCKHqV0 [3/5回(PC)]
防空壕の中から人の気配がした。 
ザッザッという足音だけが俺の耳に届いた。 
最初は俺を脅かすドッキリかとビビリながらも 
ホッとしていた俺はある事に気づいた。 

防空壕の中から見える筈の「明かり」が見えない… 
暗闇で目を慣らした俺でさえ何も見えないのに 
足音の主は明かりも持たず足場の悪い穴の中を 
こちらにむかって歩いてくる… 

「ここにいてはヤバイ」 
考えるより先に体が動いて 
俺は近くの茂みに飛び込んだ。 
足音が近づいていたが振り返らずに道無き道を 
半分転がり落ちながら下山した。



128 : 4[sage] 投稿日:2011/08/10(水) 18:49:51.04 ID:P9wCKHqV0 [4/5回(PC)]
擦り傷だらけになりながらも 
なんとか下山した俺を光が照らした。 
俺だけいない事に気づいた友人が探しにきてくれたんだ。 
確認したがやはり誰も防空壕には隠れていなかった。 
気味悪過ぎて出来る訳がないと 
そりゃそうだ。 

竹を踏み抜いて足をケガしたり 
木から落ちて首の骨を折りかけた奴もいたが 
なんとか無事に肝試しも終わり 
夜が明けてから後片付けにいったんだが



129 : 5[sage] 投稿日:2011/08/10(水) 18:53:23.26 ID:P9wCKHqV0 [5/5回(PC)]
防空壕の前に立てておいた 
10本以上あったぶっといロウソクが 
跡形もなく無くなっていた。 
たらしたロウの跡さえ見つけられなかった。 
きっと島の人が始末してくれたんだろう 
という事にして、それ以上の詮索はせず俺たちは島を後にした。