242 : 本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:2011/08/04(木) 10:16:53.94 ID:2Ptl0RW60 [2/5回(PC)]
何年か前、丁度この時期に、妹から聞いた話だ。 
それは、妹が近所のお寺から帰宅する途中の事だった。 
照りつける夏の日差しと、けたたましい蝉の声にうんざりしながら、 
妹は近道をしようと裏道に入った。 
然し、何かがおかしい。如何やら道を間違えてしまったようで、 
見た事が無い風景が広がっていた。 
住宅街を歩いていた筈なのに、いつの間にか左右に田んぼが広がっており、 
周囲は竹林で囲まれていた。 
前方には小屋があり、モーター音のようなものが聞こえてくる。 
人影は、無い。 
進んでも抜けられる保証は無いと悟った妹は、直ぐに引き返そうと思った。 

だが、その時、妹の耳に「りぃん」と鈴の音が届いた。 
背筋に冷たいものを感じた妹は、踵を返さずに進む事にした。 
妹が歩を進めると、「りぃん、りぃん」と鈴の音が響く。 
最初は鍵に付いたアクセサリの所為だと思っていた。 
否、思い込もうとした。だが、そもそも、鍵に鈴など付いていない。 
徐々に大きくなっていく鈴の音は、明らかに背後から聞こえていた。


243 : 本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:2011/08/04(木) 10:17:40.22 ID:2Ptl0RW60 [3/5回(PC)]
妹は追い立てられるように歩く。鈴の音は付いて来る。 
いつの間にか、蝉の鳴き声は止んでいた。 
田んぼの稲穂は枯れており、生温い風に揺られて手招きをしている。 
気付けば、小屋がすぐ目の前に迫っていた。 
もしかしたら、人が居るかもしれない。 
藁に縋る思いで小屋に向かったのだが、その時、気付いてしまった。 
小屋の中からする音は、モーター音などでは無かった。 
「おぉおん、おぉおん」と地を這うような呻き声だったのだ。 
その小屋に行ってはいけない。 
そう思った妹は、小屋の前を通り過ぎ、兎に角、先を急いだ。 
鈴の音に追いつかれたら、どうなってしまうのだろう。 
小屋の中に居る「何か」に気付かれたらどうしよう。と恐怖しながら。 
  
暫くして、さあっと視界が開けた。 
目の前に広がったのは、見覚えがある大通りだった。 
排気ガスと焼けたアスファルトの匂いが、妹を現実に引き戻す。 
鈴の音はもう聞こえない。 
背後を振り返ると、自分が知っている細道が続いているだけであった。 
あれは一体何だったのだろうか。 
蝉の鳴き声が茹だる空気を揺るがす中、妹は呆然と立ち尽くしていた。