235 : 102[sage] 投稿日:2011/07/21(木) 19:08:58.32 ID:K+F3ZuES0 [14/34回(PC)]
そしてそれはゆっくりと俺とバイクから離れて行き、凛とした清らかな鈴の音を残して 
滝つぼの中へと消えて行った。 

幻を見ていたかのように茫然自失している自分をようやく自覚したとき… 
それが滝つぼに消えていった事がきっかけだったかの様に急に周囲の音が戻ってきた。 
滝を流れる水の音・秋の虫たちの声・バイクのエンジンは止まったままだったが、 
いつの間にか点灯していたヘッドライトが眩しすぎるほどに周囲を照らし出していた。 

計器類のバックライトも正常に点燈している。全てが夢幻だったのかとも思えたが、 
紛れもない現実である事を割れた右のバックミラーは雄弁に物語っていた。


238 : 102[sage] 投稿日:2011/07/21(木) 19:26:49.07 ID:K+F3ZuES0 [15/34回(PC)]
「一体なにが起きたんだ?」現状を冷静に受け止めようとするあまり、俺は思わず 
声に出してこう言ってみた。 

ふたたびあの鈴の音と静かな祝詞が幽かに頭の中に響く… 
「彼の地を乱すな…彼の地を清めよ…か…を…鎮めよ…」 

その時、初めて俺は悟った気持ちになった。 
たぶん人間が入り込んではいけない聖域のような場所に… 
不浄の者は立ち入る事が許されない幽玄の神楽に… 

秋の夕暮れが作り出した「逢う魔ヶ時」の不思議な力が 
俺を禁断の場所へ入り込ませてしまったんだという事を。 

しかし、とうとう幽かな鈴の音を最後にその祝詞も 
遠く霞んで聞こえなくなってしまった。 



239 : 102[sage] 投稿日:2011/07/21(木) 19:29:24.77 ID:K+F3ZuES0 [16/34回(PC)]
この時ばかりは頼もしいはずのヘッドライトがやけ強すぎる様に感じた。 
俺はごく自然にバイクのメインスィッチをOFFに回し、サイドスタンドで 
バイクを立てると姿勢を正して滝に向かって一礼をした。 
「ここが私より上位の方達の土地であるという事を、知らずとはいえ 
不浄の者なる私が不用意に立ち入った事をお許しください」と心の中で唱えた。


 
240 : 102[sage] 投稿日:2011/07/21(木) 19:32:11.63 ID:K+F3ZuES0 [17/34回(PC)]
その時幽かに鈴の音が聞こえた様な気がしたがあまりにも幽かだったため 
本当に聞こえたかは自信がない。 
が、ここは不浄の者が立ち入る事が許されざる土地であるという 
事はなんとなく感じたので、すぐにエンジンはかけずに 
ヘッドライトだけを点灯させた状態に戻すと 
バイクを押して広場から出て行った。 

広場の入り口には鳥居の様な、薄くくすんだ朱色の木造物が 
半壊した状態で朽ち果てていた。 
そこにも小さな石柱が建っており、側によって確認してみると 
「……先…(読解不能)泉…ず…境」とだけ読めた。 



241 : 102[sage] 投稿日:2011/07/21(木) 19:37:08.83 ID:K+F3ZuES0 [18/34回(PC)]
多分ここから奥は遠い神代の昔から何かしらの聖域になっており、 
それを知る誰かがかなりの昔、それも石柱の表面が風雨で侵食され、 
刻まれた碑文が判別できない位の昔に建てたのだと思う。 

それから十分に広場から離れた事を確認し、バイクのエンジンをかけてゆっくりと… 
本当にゆっくりと下の方、TとAが待つ転倒地点まで降りていった。 

林道の途中、コーナーを曲がる度に「ひとつの宮」・「ふたつの宮」・「みつの宮」・「よつの宮」と読める石柱が 
等間隔で建っていた。 

夢から覚めたような、まだ夢の中にまどろんでいるかの様な有様だったが、 
ハンドルだけはしっかり握り、必ず2人の許に戻るんだと心強く思いながら俺は坂を下っていった。 


暗闇のなかヘッドライトを頼りに林道を進んでいると 
遠くから懐中電灯の光と懐かしい声が聞こえてきた。 



243 : 102[sage] 投稿日:2011/07/21(木) 19:43:40.29 ID:K+F3ZuES0 [19/34回(PC)]
「おーい!○○(俺の名前)、そこにいるのか!大丈夫か!」という声が聞こえる。 

視線を向けると転倒現場である下の方からTとAが走ってこちらに来ているのが見えた。 
ふと気づくとそこにも石柱があり、そこにあった石柱には「うつつの宮」と書いてあった。 

今考えると2人が近づいて来るのが見えた辺りからあの広場にあった独特の 
雰囲気はわずかに薄らいでいた様な気がする。 
後でわかった事だが、「うつつ」とは「現」のようで、実際にある事・正気といった 
意味があるらしい。 

この辺りから少し違和感が薄らいだ気もするが、今となっては判らないというのが正 
直なところだ。 

俺は走ってこちらに来る二人にゆっくりとバイクにまたがったまま近づいて行った。