610 : 本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:2011/06/21(火) 06:43:49.04 ID:w09cP7x10 [3/4回(PC)]
折りたたみ式のそれをパチッと開くと、画面が真っ暗になっていた。座席に座る、ほんの30秒ほど閉じていた間のことだ。 
突然のことではあったが、こういうことはよくあるので、気にせずに電源ボタンを長押しした。 
しかし、押し続けても電源が立ち上がらない。 
たびたびお風呂に持ち込んだり、床に落としたりするので、接触が悪くなっているのだろうか。 
こんなところで突然故障、ましてやデータの消滅なんてことになってはたまらない。 
にわかに私はあわてた。 

「これはミニー?」 

その時、横から小さな手が伸ばされて、私のケータイを指さした。 
ギョッとしてとなりを見ると、そこには小さな5歳くらいの女の子が座っていた。 

「これはひつじ?」 

髪の短い女の子は白いTシャツにピンクのスカートをはいている。床に届かない小さな足には、おもちゃみたいなピンクのサンダルがはまっている。
私は混雑して見えない向かいの座席を見透かそうとしたが、それは無駄なことだった。 
赤ん坊にしていたのとまったく同じような問いかけは、私にというより、まるでひとり言のように、遊び歌のように続けられる。 
小さな指は、順番にストラップを指さしていった。


611 : 本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:2011/06/21(火) 06:45:40.34 ID:w09cP7x10 [4/4回(PC)]
「これはミニー?」 
「これはチップとデール?」 
「これはセリア?」 
「これはお人形?」 
「これは首飾り?」 
「これはなに?」 
「これはなに?」 
「これはなに?」 

三回目の問いかけで、少女はぱっと私の顔を見た。 
多分、私はその顔を一生忘れないと思う。 

ガタンっと電車が大きく揺れて、膝に乗せていたバッグが床に滑り落ちそうになった。 
あっと思って手を伸ばした。 
もう一度となりを見ると、女の子はおらず、座席にはサラリーマン風の男性が静かに座っていた。 

電車は、池袋に到着していた。 

乗り過ごした駅を戻るため、内回りの電車に乗り換えようとホームの階段を下りながら私の目は自分の足元に集中していた。 
間違えても二度と、あの少女の顔を見てしまわないように。